伝統は勝ち抜き戦のようなもの――「スコッチの島」の新しい蒸留所

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   僕の会社のスタッフの嶋田君はスコッチが大好きだ。32歳だけれど多分、すべてのブランドを知っているのではないかと思う。飲むスタイルは常にストレート。愛してるのだ。

スコッチをもっと知るためにアイラ島へ

お土産にもらったキルホーマンのミニチュアボトル
お土産にもらったキルホーマンのミニチュアボトル

   先日、彼はスコッチをもっと知りたいがためにアイラ島まで旅行をしてきた。職場ではいいなあとみんなが言うものの、なぜそこに、という部分では彼の心を理解している人間はいなかっただろう。村上春樹の「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」を読んでしまったのかもしれない。

   アイラ島というのはスコットランドの西側にある小さい島だけれど、この島には稼動している蒸留所が8カ所ある。いや、先日まで7カ所だった。新しい蒸留所が生まれるかも、というニュースはあったけれど、嶋田君がその最新ニュースを伝えてくれた。2005年、ついに蒸留所は稼動し、現在熟成中だそうだ。

   キルホーマン(Kilchoman)という新しい蒸留所。先日までサイトも仮にあっただけのようだが、この5月になって動き始めた。まさにそういうタイミングで嶋田君はアイラ島に行ったわけだ。

   お土産にくれたのはミニチュアボトルのキルホーマン。「ニュー・スピリット」と書かれている。彼が訪れた時にはこのミニチュアボトルだけがお土産として売られていて、彼自身はその場でテイスティングをしてきたそうだ。「まだ若いんで、スコッチらしさと言えば、癖が強いってところだけでしたけど、何より嬉しかったですね」と嶋田君は言っていた(ちなみにこの夏に少量だが、この「ニュー・スピリット」は市場に出回るようだ)。

伝統を守り育てていく努力、復活させる努力

ラガヴァリンというアイラ島の蒸留所。嬉しそうな背中が嶋田君だ
ラガヴァリンというアイラ島の蒸留所。嬉しそうな背中が嶋田君だ
スコッチの原料となるモルト。麦の芽が出ている
スコッチの原料となるモルト。麦の芽が出ている

   キルホーマンは酒造に関わる様々な人々と他のスコッチ蒸留所の尽力によって復活した蒸留所だ。この蒸留所は100%この島の産物で作られているのを自慢としている。麦も自前で育てている。伝統を復活させる努力がここでは払われている。

   そしてさらに新しい、9カ所めの蒸留所、ポート・シャーロットが動き始めたとのこと。こちらはまだウィスキーを公表していない。

   産業としてのスコッチ造りの基盤がしっかりしていないのは、蒸留所の浮き沈みが示している。伝統を守り育てていくのは日本に限らず大変な努力がいるのだろう。

   かつて地元だけで消費されていたスコッチは今では世界という市場を手にしている。きっと、市場が大きくなったところで生産調整がうまくいかなくなって、蒸留所の浮き沈みが出たのだろう。生き残ったところ、消えていったところ、そして力を合わせてもう一度生まれたところ。伝統はまさに勝ち抜き戦になっている。

   アイラ島を知った今、嶋田君にとってウィスキーはいっそう味わい深いものになっているだろう。僕ですら、すこし味わいが深く感じられるようになったくらいだ。

坂井直樹




◆坂井 直樹 プロフィール

坂井直樹氏
ウォーターデザインスコープ代表/コンセプター。1947年京都市出身。京都市芸術大学デザイン科入学後、渡米。サンフランシスコでTattoo Companyを設立。ヒッピー達とTattooT-shirtを売り、大当たりする。帰国後、ウォータースタジオを設立し、日産「Be-1」「PAO」のヒット商品を世に送りだし、フューチャーレトロブームを創出した。2004年デザイン会社、ウォーターデザインスコープ社を設立し、ケイタイを初めとした数々のプロダクトを手がける。現在auの外部デザイン・ディレクター。07年9月、新メディアサイト「emo-TV」を立ち上げる。同年12月には、日常の出来事をきっかけにデザインの思想やビジネスコンセプトを書きつづった「デザインの深読み」(トランスワールドジャパン刊)を著した。

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