ITもいいけど、家事育児の「リスキリング」こそ取り組んだ方がよくないですか?【vol.31】(川上敬太郎)

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

   このコラムが始まったころ、世の中はコロナ禍の真っただ中でした。

   スーパーに買い物に出かけると、そこはマスク姿の女性ばかり。兼業主夫としては「なんで昼間のスーパーに男性がいるワケ?」などと思われてそうな気がして、肩身の狭い思いをしていました。いま思うと、そんなのは勝手な思い込みにしか過ぎなかったワケですが。

  • 男性も主体となって、家事や育児に取り組めるようになるといい(写真はイメージ)
    男性も主体となって、家事や育児に取り組めるようになるといい(写真はイメージ)
  • 男性も主体となって、家事や育児に取り組めるようになるといい(写真はイメージ)

男性育休取得率、まだ2割にも届きません。女性の管理職比率、部長相当職8.0%と偏った数字になっています。

   ところが、あれから2年以上経って気づいたことがあります。昼間のスーパーで買い物している男性比率が、明らかに増えていること。お子さん連れも、ちょこちょこ目にします。

   男性は働き、女性は専業主婦として家庭を守る。それが標準的な家庭モデルだった時代から、夫婦が共働きして家計収入を支える時代へと移り変わる...いまは、ちょうど過渡期のようです。

   会社の中の雰囲気も、徐々に変わりつつあります。

   ほんの数年前なら、「男性が育休を取る? バカなことを言うんじゃないよ!」なんて笑われても不思議ではない感覚がありました。しかし、いまや育休はもちろん、女性の産休に相当する「産後パパ育休」なるものができるなど、過去の常識が覆るような制度がいくつも施行されています。

   「男は仕事、女は家庭」という認識が崩れていくと、昼間のスーパーで男性を見かける頻度が高まるんだなあ、ってあらためて思います。

   そんな歴史的過渡期の中、2023年7月に厚生労働省が「令和4年度 雇用均等基本調査」を公表し、最新の男性育休取得率が判明しました。その比率、17.13%・・・ん?

   さらに、女性管理職の比率も判明しました。部長相当職8.0%、課長相当職11.6%、係長相当職18.7%・・・ん?

   全っ然、増えてないじゃないですか。

   ただ、男性育休取得率が17%を超えたというのは、10年ほど前はゼロに近かったことを考えると大きな進展ではあります。しかし、まだ2割にも届きません。

   女性の管理職比率にいたっては、部長相当職で8%ということは、残り92%の部長は男性ということです。めちゃくちゃ偏った数字になっています。

   政府は東証プライム市場の女性役員比率を2030年までに30%にする目論見を立てているようですが、社内昇進では相当ムリがあるじゃないですか。社外取締役などを増やすか、役職者以外から大抜擢するか、ということになりそうです。

夫婦が共に家事育児の主体となって『一億総しゅふ化』すれば、性別役割分業はなくなるはずです。

   そもそも、女性は管理職になりたがらないという声もあります。

   たしかに、私が研究顧問を務める「しゅふJOB総研」が、2022年に主婦層を中心とする就労志向の女性に行った調査では管理職を「希望する」と答えた人は26.5%しかいませんでした。

   しかしながら、同じ人たちに質問を続けて、もし結婚や出産をしても家庭の制約がなく、100%仕事のために時間を使うことができるとしたら管理職を希望するか、と尋ねると、「希望する」が64.4%に跳ね上がりました。

   これって、「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業が、いまだ多くの家庭に根強く残っているから、女性が仕事するうえで制約を受けている、ということじゃないですか。

   でも、いまや専業主婦は減少の一途を辿り、世のご家庭の3分の2以上が兼業主婦になっています。にもかかわらず、家庭から受けている制約は変わっていないということです。

   つまり、仕事と家庭の両立で悩んでいるのは、いまも女性ばかりということになります。

   自分自身が兼業主夫となって、実感としてわかったことがあります。それは、家事を「手伝って」いた時は、家事の全体像や本当の大変さが全くわかっていなかったということです。

   サラリーマンとして20年以上にわたり、家計収入獲得のプレッシャーを感じながら、日々かなりのハードワークをこなしてきた自負がありました。ところが、兼業主夫となって1年目、しんどくて2度も寝込みました。家事の大変さは、休みもゴールもないマラソンのような感じです。

   世の夫の多くが「名もなき家事」のことがイメージできないのも、家事や育児に主体となって取り組まず「手伝って」いるだけなので、全体像が見えていないからだと思います。

   「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業にメスを入れるには、男性も主体として家事や育児に取り組む必要があります。夫婦が共に家事育児の主体となって『一億総しゅふ化』すれば、性別役割分業はこの世から消えてなくなるはずです。

   主体となって取り組めるように家事や育児を覚えるのって、とても大事な「リスキリング」だと思います。それなのに、ITやAIなどのリスキリングばかり注目されて、家事育児できるようになるためのリスキリングが話題にならないのって、やっぱりヘンじゃないですか?(川上敬太郎)

川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)
川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家
男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌「月刊人材ビジネス」営業推進部部長兼編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関「しゅふJOB総合研究所」所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。
雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する「働く主婦・主夫層」の声延べ4万人以上を調査・分析したレポートは200本を超える。
NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」などメディアへの出演、寄稿、コメント多数。
現在は、「人材サービスの公益的発展を考える会」主宰、「ヒトラボ」編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。
1973年生まれ。三重県出身。
姉妹サイト