子どもを危険にさらし続ける、学校や学習塾での性被害...日本版DBSは必要なはずが、法案提出が見送りに 「こどもまんなか」社会って、言えるんでしょうか?【vol.30】(川上敬太郎)

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   洗い物をしながら、何気なく目を向けていたテレビ。流れてきたニュースを見てギョッとしました。

   現役の中学校長が、女子生徒のワイセツ画像を所持していたとして逮捕されたのだとか。この校長は、別の女子生徒に乱暴してけがをさせたという疑いも発覚して再逮捕されました。

   また、大手学習塾でも耳を疑うようなニュースが。現役講師が女子児童を盗撮したり、その動画や氏名、住所などをネットにアップしたりして逮捕。さらには、同じ学習塾で働いていた別の元講師まで盗撮で逮捕される事態にまで発展しています。

   子どもたちが通う学校や学習塾で小児性犯罪者が採用され勤めているということは、無防備なうさぎたちが集う場に、わざわざ飢えたオオカミを引っ張り込んでいるようなものです。そのような危険極まりない環境が、いまも放置されたままであることが信じられません。

  • 子どもたちを守るために…(写真はイメージ)
    子どもたちを守るために…(写真はイメージ)
  • 子どもたちを守るために…(写真はイメージ)

性犯罪歴の有無が証明されれば、再犯防止や初犯抑止の効果に。

   ところが、そんな状況を改善するために、日本版DBSなるものが検討されているのだとか。DBS(Disclosure and Barring Service)とは、子どもたちに関わる仕事に就く人に性犯罪歴がないことを証明するサービスです。すでにイギリスなどで導入されています。

   性犯罪歴の有無が証明されるようになれば再犯を防ぐことができますし、初犯を抑止する効果も期待できます。逮捕された中学校長や学習塾講師たちのわいせつ行為も、被害児童が複数人に及んでいるので、再犯防止できれば、それだけ子どもたちの安全度は高まります。

   いや、ていうかそもそもの話、これまでDBSのようなシステムがなかったことの方が不思議です。いまのままだと、一度問題を起こした小児性犯罪者でも、また別の場所で働いて犯行を繰り返すことができてしまいます。子どもたちは、ずっとそんなリスクと隣り合わせな状況に置かれてきました。

   なかには、DBSのようなシステムを導入することに対して、「犯罪者の更生の機会を奪う」といった指摘もあるようですが、犯罪の対象となるのは、いざという時に身を守ることもままならない子どもたちです。まずは何より、子どもたちの身の安全を守らなければならないと思うのです。

そもそも政府は、「こどもまんなか」社会の実現を大々的にうたってませんでしたっけ?

   力のある大人がその気になれば、性被害を受けた子どもたちを脅したり懐柔したりして支配し、口外させないようにして犯罪を繰り返すような事態も起こりえます。そんな最悪の事例の一つが、ジャニー喜多川氏によるタレントたちへの性加害事件です。10月に行われたジャニーズ事務所の記者会見によると、その時点で478人もの被害の申し出があったと言います。

   性犯罪は、辱めを受けた記憶を呼び覚ます苦痛や恐怖心などから、被害にあっても訴えられずにいる子どもたちもたくさんいるはずです。これまでどれだけの多くの苦しみが生まれ、いまも人知れず苦しんでいる子どもたちがいることか。

   この瞬間も、子どもたちが通う学校や学習塾といった場に、小児性犯罪者が潜んでいる可能性があるという現実に強い恐怖と憤りを覚えます。

   そんな状況を改善するために日本版DBSを早急に導入して、少しでも子どもたちが負っているリスクを軽減してあげてほしい・・・と思っていたら、この臨時国会で審議されると見込まれていた日本版DBSの法案提出が、見送りになったというではありませんか。

   たしかに、より実効性を高めるために制度内容を練る議論は必要だと思いますが、いまこの瞬間も子どもたちが危険にさらされている状況を考えると、導入は待ったなしのはずなのに。

   いまのところ、法案提出時期も未定なのだとか。

   あれ? そもそも政府は、「こどもまんなか」社会の実現を大々的にうたってませんでしたっけ? なのに、子どもたちを守るための日本版DBSを棚上げするのってヘンじゃないですか。それよりも大事な検討事項って、他にそんなにあるものなのでしょうか。

   と思っていたら、埼玉県では条例で「子どもだけで公園で遊ばせたり、登下校させたりするのは虐待」と見なすとのこと。そんなの窮屈でイヤだ! と思う子どもたち、多そうですけど。結局条例案は撤回されたようですが、なんか検討する方向性も順番もヘンじゃないですか。

   一方で残念なことに、政治家の先生方の間では、ワイロだ、パワハラだ、と自己中心的な不祥事が繰り返されています。とても立派な大人の振る舞いとは言い難く、これじゃあ「自分たちまんなか」社会じゃないですかね・・・。

   まさかとは思いますが、「こどもまんなか」社会の「こども」とは世の子どもたちの意味ではなく、大人になれない自分たちのことでした、だからこれでいいんです!なんてオチじゃないですよね?(川上敬太郎)

川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)
川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家
男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌「月刊人材ビジネス」営業推進部部長兼編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関「しゅふJOB総合研究所」所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。
雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する「働く主婦・主夫層」の声延べ4万人以上を調査・分析したレポートは200本を超える。
NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」などメディアへの出演、寄稿、コメント多数。
現在は、「人材サービスの公益的発展を考える会」主宰、「ヒトラボ」編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。
1973年生まれ。三重県出身。
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