社員3000人との面談成果が「発奮・スタンスセオリー」に結実!/NTTコミュニケーションズ【人を活かす先進企業に学ぶ 第1回(2)】(前川孝雄)

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   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~人を活かす先進企業に学ぶ」では、「上司力(R)」提唱の第一人者、FeelWorksの前川孝雄さんが、ユニークな取り組みをしている企業を訪問。経営者や人事責任者への対談インタビューを通して、これからの人材育成のあり方について考えていきます。

   第1回は、NTTコミュニケーションズ株式会社を訪問しました。

  • 写真左から、大原侑也さん、浅井公一さん、前川孝雄
    写真左から、大原侑也さん、浅井公一さん、前川孝雄
  • 写真左から、大原侑也さん、浅井公一さん、前川孝雄

部下のキャリア支援こそ、上司の本来業務

   <1on1のテクニックだけでは進まない! 500ページの「発奮・スタンスセオリー」で上司力を徹底強化/NTTコミュニケーションズ【人を活かす先進企業に学ぶ 第1回(1)】(前川孝雄)>の続きです。

●《お話し》大原 侑也さん(NTTコミュニケーションズ株式会社 ヒューマンリソース部 人材・組織開発部門 部門長)/浅井 公一さん(NTTコミュニケーションズ株式会社 ヒューマンリソース部 人材・組織開発部門 キャリアコンサルティング・ディレクター)
●《聴き手》前川 孝雄(株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師)

前川孝雄 いよいよ本題の「発奮・スタンスセオリー」について伺っていきます。まず感心したのはネーミング。米国の心理学者、ジョン・D・クランボルツのPlanned Happenstance Theory (計画された偶発性理論)を上手にもじっていらっしゃいますよね。これは浅井さんの発案ですか? どのように思いつかれたのですか?

浅井 公一さん はい。このアイディアは、突然頭の中に降りてきました。クランボルツの偶発性理論は、キャリアや人事の関係者にはとても人気が高いのです。私の部署のメンバーに訊いても、皆好きですね。
 誰しも自分の仕事経験を振り返ると、偶発的な出来事がつながり合い、現在のキャリア形成に役立っているという考え方は、とてもわかりやすく説明もしやすい。また、学識者の関心も引きやすいでしょう。そこでHappenを「発奮」に置き換えるとPR力もあり、ちょうどよいと考えました。

前川 人事など専門家向けではなく、現場上司の皆さん向けの施策なので、「発奮」が降りてきたところが素晴らしい。私はビジネススクールでマーケティングを専攻しており、元メディア編集長でもあるので、ターゲットに向けたコンセプトを具現化するタイトルにはこだわりますが、これには膝を打ちました。こうしたツールを作ろうと思われたのはいつからですか?

浅井さん 2013年に今のHR部(ヒューマン・リソース部)に着任した時に、中高年社員の活躍が大きな課題だと言われました。しかし、私は早々上司に訴えました。年齢が上がれば、人の能力が低下するのは古来から当たり前。
 また、少子高齢化で中高年社員が増えるのも見えていた。分かりきっていたのに、なぜ早く手を打たなかったのか。それを放置したのは、HR部や管理職たちの責任ではないか、と。

前川 なるほど。HR部着任当初から、管理職の現状にも問題意識があったのですね。

浅井さん 私は、キャリア支援を上司の本来業務だと考えています。一般に、部下育成は上司の仕事だが、キャリア支援はオプションのように思われている。しかし、それは間違いだと思うのです。

前川 全く同感です。私は生涯の仕事を人材育成と定め起業し、かつ人は仕事を通じて成長していくため、関わる上司の育成力が最重要だと考え、「上司力」の研磨・向上を訴え続けています。その言葉をお聞きできたのは、本当に嬉しいですね。

浅井さん しかし、その後、管理職研修を行い、1on1面談の方法と、月に1度は実施しようと丁寧に教えましたが、上手くいきませんでした。「忙しくてできない」というわけです。
 では、上司をもっと暇にしなければならないのか?と。その頃から、上司が効率的に使えるツールの必要性を感じてはいたのです。

1年間にベテラン社員500人と面談...79%の行動変容を得る

浅井さん その後、HR部で社員のモチベーション調査をしようと社内で提案しました。すると当時の副社長に言われたのです。――自分はモチベーションの低い社員を育ててきた覚えはない。だから、「何割の社員のモチベーションが低い」といった抽象的な話は聞きたくない。君(浅井さん)がベテラン社員全員と面談して、実際に誰がどうモチベーションが低いのか、具体的な人数と個人名で教えろと。

前川 個別具体的に実態を把握しろということですね。しかし、とても一人ではたいへんですよね。

浅井さん 複数の人間でやっては秤の尺度が分かれてしまい、はっきりしない。だから一人でやれと。

前川 浅井さんが秤になれ、ということですね。

浅井さん 「ベテラン社員全員と面談した君に訊けば、全てが分かることになる。大企業で、そんな人事担当者など他に誰もいないぞ」などと、私も大いにモチベーションを上げられまして(笑)。

前川 それにしても御社のような大企業で、一人での面談はたいへんだったと拝察しますが、そこで成果を上げられたわけですね。

浅井さん 初年度は500人のベテラン社員と面談しました。それも、単にモチベーションを調べるだけでなく、その向上を図ろうと努めたのです。
 その結果、79%の社員にプラスの行動変容が見られました。これは面談した社員の上司に訊いた結果です。もの凄い変化もあれば、ほんの小さなものもあります。しかし、上司が部下の変化を認めたのですから、面談の成果が明らかになったのです。

前川 しかも79%というのは、凄い実績ですね。浅井さんはこれまでに約3000人と面談してこられたと伺いました。

面談社員3000人の上司あての手紙が「セオリー」に結実

浅井さん 私一人での社員面談は2014年から2020年までの7年間続けました。私は面談の後に、その社員の上司全員に手紙を書きました。この人には、こういう希望や課題がある。この人には、こう接するのがよい。こういう点は気をつけたほうがいい、といった内容です。
 集合型の管理職研修などより、よほど効果的です。自分の現在の部下にどう対処すべきか、個別具体的にアドバイスが来るのですから。

前川 3000人全員について、書いたのですか...。すごい執念ですね。それらが全て「セオリー」の原型になっているのですね!

浅井さん そうです。どのような部下やケースには、どう対応すべきか。上司への手紙の集大成が「セオリー」に書いてあるわけです。ベテラン社員への対応はだいぶ進んだところで、若手や中堅や役職定年管理職など幅広く実施することになりました。
 そして、2020年10月にHR部の中にキャリアデザイン室がつくられ、今では私を含め9人の体制になっています。

350ページの「マネジャー版」を、中高年部下を持つ上司の8割が閲覧

前川 それでは、「セオリー」の概要と主なポイントをお聞かせください。「マネジャー版」「組織人事版」「キャリアデザイン室版」の3つ合わせて500ページとのことです。それぞれの役割や主な構成、特徴など教えてください。

浅井さん 「マネジャー版」が約7割を占める350ページほどです。上司が部下と面談する際に、こうしたケースや相談にはこう応じると効果的といったノウハウの解説を収録しています。
 構成は、若手・中堅・シニア、また育児をする社員など、世代別、対象別に整理しています。また、すべて通読しなくても必要な時に必要な所を参照できる、ゲームの攻略本のような作りです。特にこれだけは理解してほしいという内容を約5分間の動画16本にまとめています。こんな質問にはこう答えるとよい、といったFAQも700問ほど載せています。これらは部下を持つ管理職だけが閲覧できる社内サイト内に置いています。

前川 「組織・人事版」「キャリアデザイン室版」はいかがですか。

浅井さん 「組織・人事版」は、各事業組織単位で人材育成やキャリア開発の施策を打つ際に活用するものです。たとえば、研修プログラムはこう組み立て計画するとよいとか、この内容は面談とセットが効果的など、施策の成果を高めるための手引書です。
 「キャリアデザイン室版」は、私たちの部署内限りの知恵袋です。この事例にはこう対処して効果があった、このケースにこの対応はよくないなど。様々な取り組み例のなかの特徴的なものをまとめています。

社員のためだからこそ、厳しい本音のアドバイスも書く

前川 では、中核となるマネジャー版「セオリー」について伺います。内容の特徴はどのようなものですか。

浅井さん 一言で表現すると、「えげつない(露骨でいやらしい)」内容が書いてあります。

前川 えげつないですか(笑)。どういうことでしょうか?

浅井さん もちろん、アカデミックな人材育成論や最低限の基本事項も書いてはあります。しかし綺麗な一般論は、個別組織の固有のケースにはそのまま通用しません。ですから、弊社に有効であろう対処法を抽出し、実際に面談で使ってみて、効果が上がったものを記載しています。
 人事の裏側の話で、普段は正面からは言えないことも書いてあります。たとえば、人事の立場で「50代からの取り組みでは、もう昇進には遅い」とは正面から言えない。でも、ここにはそれが書いてあります。
 55歳の社員がキャリア面談で「これから課長を目指したい」と言った時に、上司はつい無難に「がんばれ」と言ってしまう。しかし、むしろ「70歳まで働く気があるなら、専門性を伸ばしたほうがよい」と助言してあげるほうが本人のためです。
 会社は副業も認めており、自分の市場価値を知るにはそれで試すのもいいよ、とも。また、転職を考えている社員を、人事や上司はふつう引き留めます。たしかに、転職で失敗しそうな人や迷っている人には「やめておけ」「会社でがんばれ」と言うのがいい。しかし、明らかに本人のためなら転職を励ますのもいい。ここにはそう書いています。

前川 まったくその通りだと思います。しかし、HR部としてそこまで書くには勇気がいったでしょう?

浅井さん もちろんです。だから「攻めていますね!」と評価してくれる人もいます。一方、「ここまで書くとはけしからん」という人も出てきました。
 それは想定していましたので、私が「こうした本音も知らないと、きちんとしたアドバイスはできない。こちらも勇気をもって書いているので認めてほしい」と言うと、分かってくれました。

   <社員の活躍とキャリア自律を大きく進めた『本物の1on1』の力/NTTコミュニケーションズ【人を活かす先進企業に学ぶ 第1回(3)】(前川孝雄)>に続きます。


【プロフィール】
大原 侑也(おおはら・ゆうや)
NTTコミュニケーションズ株式会社
ヒューマンリソース部 人材・組織開発部門 部門長


2001年NTTコミュニケーションズ(株)入社。主にプロジェクトマネージャーとして公共分野のICT活用を推進。その後、飲食業界のITコンサルティング、ソリューションサービスの企画を経て、スマートエデュケーション推進室長として、学校教育・企業教育のDX化に従事。2023年7月より現職。社員のキャリア自律と対話協働する組織開発に取り組む。

浅井 公一(あさい・こういち)
NTTコミュニケーションズ株式会社
ヒューマンリソース部 人材・組織開発部門 キャリアコンサルティング・ディレクター


企業内キャリアコンサルタントとして、ミドルシニアを中心に約3,000人のキャリア開発に携わり、面談手法を指導したマネージャーも1000人を超える。圧倒的面談量をもとに築き上げた独自のキャリア開発スタイルにより75%の社員が行動変容を起こす。共著に「ビジトレ」(金子書房)、キャリア支援者のための私塾「浅井塾」(HRラボ社)を開講。

前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授


人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等30冊以上。最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)。

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