利上げに至る3つのシナリオ、最も現実的なのは来年後半以降か
一方、日本銀行にとって決定的に重要なのは来年の春闘であり、その前の政策修正は考えにくい、と指摘するのは野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
リポートの「日本銀行の利上げに至る3つのシナリオ」(9月19日付)のなかで、「2%の物価安定目標の達成が見通せるようになるかどうかという観点から、日本銀行が最も注目しているのは来年の春闘で、本格的な政策変更は、最短で春闘後の来年4月の決定会合と考えられる」という見方を示す。
そして、日本銀行が利上げに至るには、次の3つのシナリオがあるという。
(1)来年の春闘での高めの賃上げ率(ベアでプラス3%~4%)を受けて、2%の物価目標達成が見通せるようになったと日本銀行が本音で判断し、それを宣言する。その後に、政策修正を急速に進める。 ただし、その可能性はかなり低い。春闘前の物価上昇率が今年1月はプラス4.2%だったが、来年1月にはプラス2%を割り込む予想だからだ。物価上昇率が今年の半分以下になれば、ベアが大きく加速する可能性は低い。
(2)日本銀行がなんとか現在の金融緩和を見直したいと考えているのであれば、本当に2%の物価目標を達成できると本音で思わなくても、「達成が見通せた」と宣言して、政策修正に踏み切る。この第2のシナリオは、第1のシナリオより可能性が高い。
日本銀行のコア消費者物価指数(CPI)の見通しは、2年連続でプラス2%を大きく上回る。来年の春闘賃上げが、今年の水準を下回っても、2024年度の物価見通しをこの先プラス2%超にまで引き上げれば、3年連続で物価上昇率はプラス2%を上回る。これらの「成果」を持って、最短では来年4月の決定会合でマイナス金利政策解除に踏み切るというシナリオだ。
しかし、「2%の物価目標達成が見通せた」と宣言すれば、金融市場は、短期金利が2%以上の水準まで引き上げられるとの観測を強め、10年国債利回りは3%ほどまで跳ね上がる。これは、金融市場に大きな混乱をもたらす。日本銀行の本格政策修正は拙速であり、失敗だったとの強い批判を受けることになる。
そこで、最も可能性が高い第3のシナリオが登場する。
(3)金融緩和は長期化するとし、長期戦に備えて金融緩和の枠組みを見直す方針を示す。副作用の軽減が狙いとしつつ、実際には、緩やかながらも本格的な政策修正に乗り出す。第2のシナリオのように、急激な利回り上昇が生じることもなく、日本銀行が想定するペースと順番で、政策の見直しを順次、緩やかに進める。
木内氏はこう結んでいる。
「マイナス金利政策解除を実施するのは、最短で来年(2024年)後半になるのではないか。さらに、内外景気情勢の悪化や米国での金融緩和が日本銀行の政策修正を後ずれさせる可能性が考えられる。それらの動向次第では、2025年まで後ずれする可能性もあるだろう」
日本経済にとって、相当の長旅になりそうだ。(福田和郎)