委員の過半数確保、植田氏が本気になれば「年内利上げできる」?
また、植田氏の「年内利上げ」発言は本気ではなく、円安対策のポジション・トークだが、結果的に利上げは早まるだろうと指摘するのは、第一生命経済研究所の首席エコノミスト熊野英生氏だ。
熊野氏はリポート「年末利上げは本気なのか? 円安対策としてマイナス金利解除に言及」(9月15日付)のなかで、円安に加速したドル円レートの推移のグラフ【図表】を示しながらこう説明する。
「植田総裁は、本気で年末利上げを考えている訳ではないとみられる。むしろ、利上げの可能性というショッキングな発言を武器にして、ドル円レートが1ドル150円に近づいていく勢いに冷水を浴びせることが狙いとみた」
しかし、「口先介入」が本気の値上げに変わる可能性はゼロではない。なぜならば――。
「仮に、(市場に)年内利上げが早すぎたとわかると、今後、年末が近づくに従って、円安が進むことになる。これは、早すぎる利上げが遠のくことで、かえって円安への反動が生まれるということだ。そうなると日銀としてはまずい。
植田総裁は年末が近づくにつれて、現在よりも利上げの可能性が強まっていなければいけなくなる。たとえ、12月末ではなくても、2024年1~4月くらいにはマイナス金利解除がありそうだとなれば、反動としての円安は進みにくくなる」
「筆者(=熊野氏)の予想は、次の春闘を待って、2024年4月末がXデー、利上げというものだ。年末ではなく、いずれにしても利上げが近いということでなければ、ポジション・トークは混乱を起こすだけになる。そうはしたくないので、利上げの可能性が年末にかけて強まるように考えての発言なのだろう」
もう1つ、熊野氏が日本銀行の利上げが早まると予想する理由は、日本銀行の9人の政策審議委員の「勢力図」だ。8月末から9月初めにかけて、4人の審議委員が講演をしたが、4人のうち2人が「2%目標の達成」に前向きだった。
熊野氏は、こう指摘する。
「執行部(総裁+副総裁2人)は3人だから、植田総裁が本気になれば9人中の5人がマイナス金利解除に賛成して、年内の目標達成が可能になる。単に、植田総裁がインタビューで示唆しただけではなく、9人のうち執行部3人+2人の委員が賛成すれば、政策が動かせるという現実味を感じさせたことが、マーケットの心理を動かした」
本気になれば、年内利上げはできるというわけだ。