日韓関係改善へ、「シャトル外交」再開で合意 だが、両国が素直にアピールできないそれぞれの事情

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   韓国の尹錫悦大統領が韓国大統領としては約4年ぶりに日本を訪問し、岸田文雄首相との首脳会談が行われた。両首脳が相互訪問する「シャトル外交」の再開で合意するなど、文在寅・前韓国大統領時代に冷え込んだ日韓関係は雪解けに向けて一歩を踏み出した。

   しかし、実際には両政府は国内世論の反発を恐れ、関係改善を全面的にアピールするのを躊躇している状況だ。関係改善に向けた道のりはまだまだ厳しそうだ。

  • どうなる?日韓関係
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尹大統領の「輸出規制の解除」という発言に、西村経産相は「運用の見直しだ」と強調

「解除という言葉は、私ども使っておりません」

   両国のほころびが浮き彫りになったのは、2023年3月16日に日韓首脳会談が行われた翌日のことだ。

   閣議後会見で、西村康稔経産相がケチをつけたのは、前日の首脳会談で尹大統領が言及した「本日、日本は3項目の輸出規制措置を解除した」という発言だ。

   日本は2019年、半導体関連素材3品目について、韓国向けの輸出管理手続きを厳格化した。これに反発した韓国は、世界貿易機関(WTO)に提訴に踏み切った経緯がある。

   尹大統領の来日に合わせ、日韓の通商当局はこの扱いを協議。日本の経産省は3月16日、3日間にわたって政策対話を続けた結果、「韓国側の取り組みや実効性の改善が認められた」として「3品目の輸出管理の運用見直しを行う」と発表した。

   報道各社はいっせいに「輸出規制の解除」と報じ、韓国大統領まで「解除」と表現したことが西村氏には気にくわなかったらしい。

   17日の会見で西村氏は「解除というと、これまで取り組んできた体制ががらりと変わるイメージがあるが、そうではない」と強調し、今回はあくまで「運用の見直しだ」と繰り返した。

   西村氏だけではない。経産省も報道陣に対し「解除ではなく、運用の見直しだ」と何度も念押し。16日に「解除」報道が流れると、幹部が記者を集め「解除という表現は正しくない」と「裏レク」を開いてくぎを刺したほどだ。

韓国側、元徴用工訴訟問題の「解決策」提示で、関係改善目指すも... 日本側と認識のずれ

   不協和音は民間でも目についた。

   経団連と、韓国の全国経済人連合会(全経連)は16日、それぞれ1億円ずつを拠出して「未来パートナーシップ基金」を創設すると発表した。

   今回の関係改善の大きなきっかけとなったのは、韓国政府が3月6日、両国の最大の懸案事項になっていた元徴用工をめぐる訴訟に関し、韓国政府傘下の財団が被告の日本企業に代わって賠償金を支払う「解決策」を示したことだ。

   韓国側はパートナーシップ基金を「被告の日本企業が間接的に日韓関係改善に寄与する仕組み」と位置づけるが、日本側は「あくまで徴用工問題とは切り離した枠組みだ」(経団連)との立場を崩していない。

   両国財界団体が開いた記者会見でも、認識のずれが表面化した。

   韓国側の記者からは基金に被告企業である日本製鉄、三菱重工が参画するかに質問が集中。経団連の十倉会長は「特に意識していない」とかわし続けた。

日韓ともに世論の見極めは課題に 日本では、与党保守派など対韓強硬姿勢も根強く

   日本側が関係改善を声高に叫べない背景には、与党の保守派を中心に「韓国には強硬姿勢で臨むべきだ」との声が根強いことがある。

   中央省庁のある幹部は「関係改善を急テンポで進めすぎれば、世論の反発を招く恐れもある。世論を見極めながら慎重に進めるしかない」と指摘する。

   事情は韓国側も同じだ。

   日本との関係修復にかじを切った尹大統領はいま、韓国国内で激しい「反日世論」にさらされている。

   韓国でも事業を行う財界関係者はこう心配する。

「親日政策をとった韓国大統領の中には、最終的に世論に押され反日に転じるケースも少なくなかった。日本企業はハシゴを外される怖さを知っているだけに、日韓関係の改善を手放しで喜べない側面がある」

   本格的な日韓の関係改善は緒に就いたばかりで、今後の双方の努力次第という冷静な認識が必要だ。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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