食料品など、日々の生活に欠かせない品物がどんどん値上がりしています。
ある日のこと、夕飯の買い物をしていたら、卵の値段が10円上がっていることに気づきました。「10円ならしゃあないか...原材料諸々上がってるし」と自分に言い聞かせたものの、しばらく日が経つと。今度は1円だけ上がっているではないですか!
そして、またしばらくすると10円、また1円と、小刻みにジリジリ値段が上がっていきます。
売る方も大変なのだと思いますが、家計を預かる主夫としても、ジリジリ値上げは真綿で首を締められるように、苦しくなっていきます。別の日には牛乳が、また別の日にはお菓子が...と日替りで値上げ商品を見つけるたびに、ため息の数も増えるようになっていきました。
大企業の賃上げの話に、「ウチらには関係ない」と、あきらめ気味の声も...。
そんな時に目に飛び込んできたニュース。大手企業が、続々と賃上げ方針を発表しているとか。サントリーに日本生命、すかいらーく、三井不動産、ファーストリテイリングなど、そうそうたる会社が名を連ねています。どれだけ物価が上がろうとも、それ以上に賃金が上がってくれるなら、何も怖くはありません。
ところが、厚生労働省発表の毎月勤労統計調査結果速報によると、物価上昇分を加味した2022年11月の実質賃金は前年同月比でマイナス3.8%。いまのところ、賃上げペースは物価上昇のペースに追いつかず、マイナスはこれで8か月連続。なんとも厳しい数字です。
大手企業の賃上げニュースに対しては歓迎する声がある一方、「それくらいじゃ足りない」という反応もあります。また、「うらやましい」という声も。賃上げのニュースをどれだけ耳にしたところで、それは一部大手企業に限った話。「ウチらには関係ない」と、あきらめ気味の声が出てしまうのも仕方ないように思います。
こうなると、労働者の代表である労働組合に頼りたいところです。連合は春闘で5%の賃上げを要求する方針を打ち出してくれています。総務省発表の消費者物価指数によると、2022年11月の生鮮食品を除く総合指数で前年同月比3.7%の上昇。5%はそれを上回る数字です。
しかし、応じてくれる会社がどれだけあるかはわかりません。また、仮に5%アップが実現できたとしても、物価がさらに上がってしまう可能性だってあります。日本銀行発表の企業物価指数は2022年11月速報で前年同月比9.3%アップ。消費者物価指数よりも遥かに高い数字になっているだけに、値上げを抑えて頑張ってくれている会社側が耐えられなくなるかもしれません。
中小・零細企業の賃上げが進まなかったとしたら、大手との賃金格差が広がっていくのでは?
そんな中でも、早々と賃上げ宣言している大手企業の存在は頼もしい限り――なのですが、ここでふと疑問が生じました。大手企業の賃金水準って、そもそも高かったのでは? それと、もしも大手企業だけ賃上げできて、中小・零細企業の賃上げは進まなかったとしたら、賃金格差がどんどん広がっていくではないですか。
あと、賃金格差の観点から考えると、「○%アップ」という賃上げの仕方も、ヘンだなって思います。もし5%賃金アップした場合、そのまま年収に当てはめると1000万円の人なら50万円の賃上げ。一方、300万円の人は15万円の賃上げなので、35万円も差が開いてしまいます。
物価上昇対策をうたいながら、比較的余裕がありそうな高所得者の賃上げ額の方が多く、より苦しいであろう低所得者の賃上げ額の方が少ない施策って、どうなんでしょう。かえって苦しさ、格差が広がってしまいそうです。
より苦しい状況にある労働者たちの代弁を労働組合に期待したいところですが...厚生労働省発表の労働組合基礎調査の概況によると、2022年の推定組織率は16.5%。ということは、83.5%の労働者には代弁者がいないということになります。
さらに、組合員の66.6%は1000人以上の大手企業に勤めている人たち。企業規模が小さくなるにつれて比率は下がり、99人以下の企業に勤める人はわずか2.3%しかいません。この人たちの声って、どこまで反映されているのでしょう。
などとブツクサ言っている間にも、ジリジリ値上げは生活を圧迫し続けています。物価上昇への余力も苦しさも、置かれている境遇によってそれぞれ異なるのに、例年と同じように賃上げ一律○%アップ!とか、労働者をザクっと一括りにするやり方って、やっぱりムリがあると思います。
それでも、賃上げ自体はありがたいことなのですが...代弁されずに埋もれてしまっている大勢の労働者の声には、誰か耳を傾けてくれているのでしょうか。(川上敬太郎)