とある休日。中学生の次女が部活の大会に出場するというので、応援に出向いたところ、顧問を務める先生も来てくださいました。熱心さをありがたく感じる反面、「平日も忙しいだろうに、部活のために休日まで仕事だなんて、学校の先生も大変だな」と、思わず独りごちました。
民間企業もしかり。かつて会社員は企業戦士と呼ばれ、「24時間タタカエマスカ?」と健康ドリンク片手にモーレツに働くことが求められた時代がありました。
上司に求められるマネジメントの仕方は、大きく変わってきています
とはいえ、いまはどうなのかといえば、話題の投稿について、私が解説させていただいた記事『「時短勤務、昇格できないのは不公平!」女性の投稿に大激論 「退社後、部下がトラブル起こしたら責任とれる?」「私、時短でも昇格した」...専門家に聞いた(2)』の中でも触れたように、「夜遅くまで頑張っている」「土日も出勤している」「家に帰っても仕事している」なんて誉め言葉がまかり通ってしまう職場は、少なくないようです。
そんな価値観が通用する職場の上司は、仕事のことだけ考えていれば、マネジメントが可能です。すると、遅くまで残業することになったとしても、「この仕事が終わるまで帰るなよ!」と部下を強面で有無を言わせず従わせてしまう「ストロングマネジメント上司」が、デキる上司として君臨することになります。
しかし、いまやワークライフバランスを取りながら働く時代です。また、世帯構成も大きく変わり、夫婦共働きが圧倒的多数となっています。男性だけが働いて、それこそ24時間仕事に没頭するような環境ではなくなりました。
ワークライフバランスが前提のいまは、残業がプライベートにどんな影響を与えるかもイメージしないと、適切なマネジメントはできません。プライベートには家事や育児、介護をはじめ、社員が心身を休ませる時間、趣味の時間など、仕事以外に費やす時間すべてが含まれます。
時代の変化とともに、価値観も上司に求められるマネジメントの仕方も大きく変わってきているのです。
組織の風通しが悪く、パワハラ体質が、不正行為につながってしまった
そんな、時代の変化を如実に感じた印象深い会話があります。合同でイベントを企画していた会社の社員と雑談を交わしていた時のこと。その社員は、こんなことを言いました。
「先日会社に残って仕事していたら、夜8時を過ぎたころ、上司が残っていた社員たちの机の上にお菓子を置いていったんです。わざわざ外に行って買ってきたみたいで...」
遅くまで頑張って仕事している社員をねぎらうために、お菓子を買ってきてくれた優しい上司の話なのかと思いきや、その社員は憤慨した様子でこう続けました。
「それって、まだ帰るな! もうひと踏ん張り働けってメッセージですよね?」
24時間タタカエマスカ?の時代なら、夜8時過ぎに配られたお菓子から部下が受ける印象は、まったく違っていたでしょう。「この仕事が終わるまで帰るなよ!」と指示し、部下のプライベートにしわ寄せがいくなんてことは日常茶飯事でした。
しかしワークライフバランス前提の時代に、長時間労働が続いたり、それで部下が心身の健康を害してしまうようなことになれば、上司の責任が問われることになります。部下のプライベートのあり方にも配慮しつつ、より短い労働時間でより高い成果が出せるように導く。それがいまの時代の上司に求められるマネジメントなのです。
それなのに、強面で逆らえない雰囲気を醸し出し、心身が擦り切れるまで働く部下を見て目を細め、「夜遅くまで頑張っている」などと称賛する、存在自体がブラック企業の広告塔のような時代遅れの「ストロングマネジメント上司」は、いまもあちこちの会社の中にいるのではありませんか?
そんなことを思いながらネット記事を見ていたら、トラック製造会社が長い間、不正を隠蔽してきたというニュースが目に入りました。調査委員会の報告によると、組織の風通しが悪く、パワハラ体質とのこと。不正を隠し続けるために、「ストロングマネジメント上司」が暗躍してきた様子がうかがえます。
「ストロングマネジメント上司」がはびこってきたツケは、これからもいろんな会社で、あらわれてくることになりそうです。トラック製造会社のような事例は、決して対岸の火事ではありません。過去は変えることができないのですから、多くの会社にとって明日はわが身です。
でも、未来はいつでも変えることができます。いまのご時世、「ストロングマネジメント上司」なんてもういらなくないですか?
(川上敬太郎)