2024年の導入に向けて「人型ロボット」の共同開発が話題になっている西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)。男性社会のイメージが強い鉄道業界だが、多様な人材が活躍できる環境・体制作りが社外からも評価されている。
「子育てサポート企業」(厚生労働大臣)や「新・ダイバーシティ経営企業100選(2019)」(経済産業大臣)、LGBTQなど性的マイノリティの取り組み評価指標「PRIDE 指標2021において、最高指標「ゴールド」を受賞している。
JR西日本は、2022年から開始となる「女性活躍および次世代育成に関する行動計画」をもとに、次のステップへとダイバーシティの取り組みを進める。CS推進部の富澤五月(とみざわ・さつき)部長と、課長代理の渡壁なぎさ(わたかべ・なぎさ)さん、人事部の牧野早希(まきの・さき)さん、株式会社JR西日本カスタマーリレーションズ(JR西日本から出向中)の社長、髙須優子(たかす・ゆうこ)さんに、取り組みを聞いた。
メンバーと一緒に考えサポートする姿勢
<「変化」できる会社が人財を育て、成長する/JR西日本の富澤五月さん、渡壁なぎささん、牧野早希さん、髙須優子さん(前編)>の続きです。
――ライフステージやキャリアアップをどう考え、乗り越えてきたのか。リーダー層を目指す女性社員を増やすために、どんな取り組みをしているのか教えてください。
髙須優子さん「JR西日本は社員が働きやすい制度が整っていて、どんな職種であっても、使えるようになっています。ただし、制度を知っているか知らないかで、意思表明や、働き方に差が出てしまいます。
弊社の場合、ワーク・ライフ・バランスサポートBookという制度が載っている冊子(現在はWeb版)があります。私が必要としていた時期はまだなかったので、自分で社内規程などを調べていましたね。『こんな制度あるよ』と勧めたり、冊子の内容以外のことで困っている人がいれば、一緒に調べたり。それでも解決できないことは、専門の部署を頼るなど、リーダーになった時には心がけていました。
『ライフスタイルに変化があった時に、とてもじゃないけどこの状況では仕事を続けられない』となったとしても、どうやって制度を使って、仕事を続けていこうかと一緒に考えていくうちに、気が付いたら『仕事を続けられている』という状況になっていると思います。
女性社員だけでなく、すべてのメンバーが仕事を続けられるように、一緒に考えサポートすることを意識しています」
富澤五月さん「困っているメンバーがいたら、制度を使ったいろいろな人の事例を活用しながら相談に乗っていました。最近は介護の問題も増えているため、男女限らず制度を知っておくこと、使うことも大事だと思います。
何か相談があったときに、『一緒に考えてもらっている』と感じてもらえるように心がけています。女性はライフスタイルが変わるとき、いろいろな選択をしないといけないと思います。何か起きてからではなく、何か起きる前から先に制度を知っておく、調べておくことが大事だと思います。一緒にさまざまな方法を見つけだせるように、男性の管理者を交えながらみんなが寄り添えるように意識しています」
渡壁なぎささん「私は、『子育て×仕事』応援Bookという冊子の作成に参加しました。育児中などの制度を使ったことがある人に、人事部から『Web冊子の編さんに携わってほしい』と声がけがあったので、一昨年携わりました。制度をよりよくしていこうという会社の想いも感じますね。
私が育児休業中のメンバーに対して取り組んでいることは、『お手紙を届ける』ことです。育児休業中は、どうしても会社との接点が少なくなってしまいます。お手紙で会社の様子や変化などを伝えながら、困ったことがあれば相談してもらいやすいように距離感をできるだけ縮めることを意識しています。
また、自分からささいなことでも情報を発信していくことで、悩んでいる人が『こんなことも言っていいんだ』『こんなことでも聞いていいんだ』と、言葉にしやすい雰囲気作りを意識しています」
牧野早希さん「『子育て×仕事』応援Bookは、『悩んだこと』『制度の申請方法でわかりにくかったこと』など生の声を掲載しています。これから制度を使う予定の人たちと面談をする時にも『先輩達の例』として冊子を活用しています。先輩たちの事例を知って、どう活かしていくかを一緒に考えていく仕組みです」
フラットな発言が「いい仕事」につながる
――環境やマインドの変化を乗り越えた現在、みなさんはどんな仕事に取り組んでいて、何をモチベーションにして業務に取り組んでいるのでしょうか。
髙須さん「今は男性女性と考えなくなりました。新卒の時代から男性の中に少数の女性だったせいか、相手に遠慮することなく『歯に衣着せぬ』発言をしてきたと思います。話を聞いて、理解できないことがあれば、わかったふりをしないで質問をする。他の人のためにもなることだと思って発言することもありますし、フラットに発言することによって、結果的に『いい仕事』ができると思っています。
――『いい仕事』とは、どういうことでしょうか?
髙須さん「『いい仕事』とは、会社としてやりやすいか、やりにくいかではなくて、お客様にとってどうなのか。こういったサービスを真剣に考えていかないと、私たちの会社はこのままではまずいと思ったのです。現在、この考えを持って、コンタクトセンターを担う会社の社長を務めています。
男性女性という意識はしていませんが、『女性活躍推進』にフォーカスされた時には合わせた発言をしています。女性が少ないがために、『女性初』と言われる機会がよくありますが、私自身もはじめてのことなので不安だらけ。はじめて任されるポジションに対しても、わからないことばかりです。
そこでわからないことは、富澤さんなど同期、先輩はもちろん後輩や部下、人事などの関係部署も駆使しつつ、仕事で知り合った方や友人・家族などに聞いてまわって『できるふりをしないこと』を心がけています。まわりの助けを借りながら、一つひとつ仕事が仕上がっていくと『私でもできるんだ』という自信になってモチベーションを上げられていると思います。
――よくわかります。
髙須さん「モチベーションが上がるのは、『今日はこの仕事をやった』『明日から休みだ』というように目の前の仕事を見ている時ではなく、見える風景が変わった時だと思っています。新しいポジションにつくことで、仕事の見える風景が広がります。先のことまで情報が得られるようになってくると、『日々の仕事はしんどいけど、5年後の会社はこんなことを計画している、そこに私も乗りたい』と思えるようになってきました。メンバーにもこの先の仕事の見せ方を工夫することで、モチベーションを上げられるんじゃないかな、と思いながら接しています」
――富澤さんはいかがですか?
富澤さん「入社して数年くらいは社内でも『男性・女性』という考えがまだあったので、気にすることもありました。でも気にしていても、どうにもならないなと。男女ともに気にしてもらいたくないという気持ちも出てきました私自身も時代とともに意識しなくなってきましたね。
ただ、はじめは『女性初』と言われるのが嫌でした。しかし、女性社員が少ない環境だったので、言われるのは『仕方がない』と思えるようになりましたね。
髙須さんと同じく、はじめてのことに対して不安な気持ちがありました。でも、やったことがない仕事に携わる時には助けてくれる人がたくさんいました。今も、まわりに対して『ありがたいな』と思いながら過ごしています。仕事上、さまざまなエリアに行くことも多くわからないことだらけです。素直に『わからない』と伝えるとメンバーが頑張ってくれて支えてくれています。最近は、男女というより仲間という関係に近づいてきたと感じています。
別の部署から現在のCS推進部に異動してきた時も、もともといた髙高須さんからのサポート、他の部署のメンバーが会議の進行度合いなど教えてくれました。まわりが支えてくれることを実感することがモチベーションの秘訣です。
会議に出ると、出席者はやはりまだ男性が多い環境です。女性としての意見も言いますし、男女に関わらず気になったことがあれば伝えるように意識していています」
――つづいて、渡壁さんの話も聞かせてください。
渡壁さん「女性として子育てをしながら働いてきた経験談をまわりに伝えることが、『お客様に喜んでいただけるか』を考える際の参考になるのかなと思って話すようにしています。
私がモチベーションを保てているのは、刺激を受けられるいい環境がまわりにあるからだと思います。みんなが『お客様に喜んでいただけるか』を意識して日々議論しています。
コロナ禍で、なかなか家族とも会えない状況のなか、鉄道を使って久しぶりに会えた時の喜びの姿。鉄道事業とは『人と人とを繋いで、双方に嬉しい気持ちが生まれる』『現地に行って実際に物事を体験できる』ことを生み出す、すごいサービスなのではとあらためて気づきました。そこに携わっているってすごいことだと自負しています。『私にももっとできることがあるんじゃないかな』と社内、社外からも刺激をもらっています」
すべての仕事はお客様につながっている
――仕事を通じてどんな価値を提供していきたいですか。どんな人(女性)と一緒に働いていきたいですか。
富澤さん「CS推進部でお客様視点での施策、サービスを企画提案する役割を担っています。JR西日本の社員は『すべての仕事はお客様につながっています』という共通の価値観を持って仕事しています。
男女問わず、私たちの想いに共感してもらえる人と一緒に働きたいですね。鉄道事業は『女性が少ない業界』と見られがちですが、女性も増えてきています。
企業理念で『人々が出会い、笑顔が生まれる、安全で豊かな社会』をめざす未来として掲げています。訪れたい、住みたいまちづくりや新しい価値を創る仕事が多い。このような仕事に興味を持ってもらえる方と一緒に仕事をしたいです。
働き方も時代に合わせて変わってきており、JR西日本は変化することが苦手ではない会社だと感じています。現在の部署は在宅ワークが主で、週1回の出社。働きやすい環境が整っていると思います」
髙須さん「いろいろなタイプの人にJR西日本に来てほしい。『何事に対してもまずやってみよう』と思う方と一緒に働きたいですね。『苦手だけどやってみようかな』と。男女問わずやってみようと楽しめるような行動に移すタイプの方がいいですね」
渡壁さん「さまざまな制限がある中でも、『こんなふうに工夫したらできるんじゃないか』と発想を豊かに、『できないではなくできる方法を考える』タイプの人。正解はみんなで見つけていけばいいと思っています。現在はオンライン会議やチャットで仕事をする機会も増え、働き方は変わってきています。JR西日本はライフスタイルに合わせた働き方ができるように制度が整っていると思います」
牧野さん「『自分の能力を発揮できることがあるかも』と思った方はぜひ挑戦してほしいです。どの仕事も一人で完結する仕事はなく、チーム、部署間、他社を巻き込みながらお客様にサービスを届ける仕事。チームで仕事したい方、地域のつながりや視野を広げたい方にはおもしろいと思ってもらえる会社だと思います」
――ありがとうございました。
(聞き手:田中博子)
【プロフィール】
富澤 五月(とみざわ・さつき)
西日本旅客鉄道株式会社鉄道本部CS推進部 部長
1993年入社。人事部門、車掌区長・駅長などを経験。2021年6月より現職。
渡壁 なぎさ(わたかべ・なぎさ)
西日本旅客鉄道株式会社鉄道本部CS推進部 課長代理
2007年入社。営業部門(教育・宣伝・ネット予約システム開発)などを経験。2019年6月より現職。
牧野 早希(まきの・さき)
西日本旅客鉄道株式会社人事部(人材育成・ダイバーシティ推進)
2011年入社。乗務員、新幹線の企画部門などを経験。2020年11月より現職。
髙須 優子(たかす・ゆうこ)
株式会社JR西日本カスタマーリレーションズ 社長(JR西日本より出向中)
1993年入社。車両部門、技術開発総務、CS推進などを経験。2021年6月より現職。