2024年の導入に向けて「人型ロボット」の共同開発が話題になっている西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)。男性社会のイメージが強い鉄道業界だが、多様な人材が活躍できる環境・体制作りが社外からも評価されている。
「子育てサポート企業」(厚生労働大臣)や「新・ダイバーシティ経営企業100選(2019)」(経済産業大臣)、LGBTQなど性的マイノリティの取り組み評価指標「PRIDE 指標2021において、最高指標「ゴールド」を受賞している。
JR西日本は、2022年から開始となる「女性活躍および次世代育成に関する行動計画」をもとに、次のステップへとダイバーシティの取り組みを進める。CS推進部の富澤五月(とみざわ・さつき)部長と、課長代理の渡壁なぎさ(わたかべ・なぎさ)さん、人事部の牧野早希(まきの・さき)さん、株式会社JR西日本カスタマーリレーションズ(JR西日本から出向中)の社長、髙須優子(たかす・ゆうこ)さんに、取り組みを聞いた。
社員が能力を発揮し、いきいきと活躍できる企業へ
――「行動計画」をもとにこれまでの取り組みや現状、今後の取り組みについて教えてください。
牧野早希さん「現在JR西日本の社員数は約2万7000人です。弊社では1986年の『男女雇用機会均等法』により、1988年から女性の総合職での採用がはじまりました。現在では少しずつ女性社員が増えてきて、女性社員の割合が15%超えた状態です。すべての社員が能力を最大限に発揮しいきいきと活躍できる企業を目指して、行動計画期間中(2022年4月1日~2025年3月31日)に3つの目標を掲げています。
・行動計画期間中に採用者に占める女性の割合を25%以上
・2024年度末までに管理職および指導者層の女性の人数を現行の1.5倍以上
・2024年度末までに男性の育児休業等取得率を35%以上
現在、男性の育児休業取得率は30%超えています。女性活躍と次世代育成に関する取り組みとして、男性社員の育児参画を推進し35%以上にすることを目標としています」
――2013年には女性社員数が3000人を超え、社員に占める女性社員の割合は15.2%まで達しています。入社当時からこれまでのこと、女性リーダーとして心がけていることなどを教えてください。
富澤五月さん「髙須さんと同じ1993年入社です。当時は女性の採用が増えた年といわれていましたが、200人の新入社員に対して20人が女性でした。私は事務系、髙須さんは技術系として入社しました。
1999年4月、『男女雇用機会均等法』の改正で女性の深夜業務が可能になり、2000年6月から人事の仕事で教育、採用に携わりました。この頃からプロフェッショナル採用が増え、女性社員も車掌や運転士で活躍するようになってきました。
その後、私が乗務員区所の係長になった2000年代になると、メンバーそれぞれのライフスタイルや、『結婚、出産しても、仕事は続けてもいいんじゃないか』というような話をする機会が増えてきました。『キャリアを重ねても男女限らず仕事ができる』『みんなで助け合いながら仕事をしていこう』と」
――そういった背景があり、年代を経て、キャリアについて話す機会が増えていったのですね。
富澤さん「ええ。私は乗務員経験がない中で、車掌区長になったんですね。業務についてわからないことだらけだったので、車掌や運転士から学ぶことが多かったです。あらめて『人は宝だな』と感じたことを覚えています。
私が『働きやすさ』について社内に発信するだけでなく、社員自ら発信していくことが必要だと思います。リーダーとしてやるべきことは、みんなに会社の方向性を伝えるということ。たとえば、『いくつになっても働けますよ』『男性も育児休業とろうね』とか。それに加え、みんなが考えていることを会社に伝えていくことも必要だと思っています。
まわりから女性活躍のロールモデルと言われることもありますが、いろいろなリーダーがいることを見せていくことが重要だと思います。『私にしかできないこと』を見せようという想いで動いています」
髙須優子さん「入社して10年間くらいは、まわりにまったく女性がいない環境でした。職場に女性が一人という環境だったので、男性と一緒に育成されるのではなく、上司から『女性だからどうする? どうしたい?』と聞かれていました。
上司も女性の部下がいなかったので、どう育成したらいいかわからなかったんだと思います。『女性であることが注目されている』とプラスに受け止めることもあれば、『なんだろう』と疑問に思うことも多かったです。
2005年を過ぎた頃から、契約社員を含む女性の採用が増えてきました。役職がはじめて上がったときは、結婚して子どもがいた状態でした。当時は、女性は結婚したら退職することが主流だったので、『(この役職)私でいいの?』と思いましたね。
その後、少しずつ役職があがるうちに、『プライベートで事情を抱えていても、この会社で働いていてもいいんだ』と気持ちが前向きになりました。プライベートで事情を抱えた社員と会社の位置付けが見えてきたことで、女性リーダーとしても迷うことなく進むことができたと思います」
子育て中「こんなふうだと仕事がしやすいです」と発信
――もともと管理職になるという目標を持っていたのですか?
髙須さん「役職があがっていく前は、管理職になること、上位職になることを自分の中でまったくイメージしていませんでした。働きながら『こんな仕事がしたい』『一緒に働いている人のために~したい』と、役職より仕事に気持ちが向いていきました。
理想を実現しようと思うと、権限を得るためにステップアップが必要です。職能が上がると、会社に声を届けやすい立場になります。しかし、実際はまだ、自らが管理職になることを意識していない女性が多いため、上司を通じて日頃からの働きかけが必要だと思います」
渡壁なぎささん「私は、結婚、育児休業もとった後、現在はフレックス制度(※コアタイムなしのフレックス制度で主に間接部門で使用可能)を使いながら働いています。以前は、まわりに子育てをしながら働いている女性社員が、あまりいませんでした。
まわりの人も私に『どう接してあげたらいいんだろう』と気にしながら過ごしていた時期がありました。そこで、私自身ができることを考えた時に、『今、私はこんな状況です。こんなふうだと仕事がしやすいですし、会社で過ごしやすいです』と自らが発信することを心がけました」
――伝えることが大事なのですね。
渡壁さん「また、『子どもがいるからといって、色眼鏡で見てもらう必要はないですよ。特別に気をつかってもらわなくてもいいですよ』とも伝えていました。自分の状況を発信することは、大切なことだと思います。同時に、同じようなライフスタイルの方が出てきた時に、まわりにとっても必要なんじゃないかな、と思いながら発信していました。
子どもが小さい頃は、朝は調子がよかったのに突然調子が悪くなることなど、予測のつかないことがあります。主人と話し合って、保育園からの第一報は私が受けるなど、家庭の中で役割分担ができていました。会社でも、家庭のことについてあらかじめ伝えていたことで、急な対応にもサポートしていただけました。
今は子どもが小学生になり、フレックス制度を柔軟に使っています。フレックス制度は子育中の人だけでなく、誰もが使える制度で、最大限活用しています」
富澤さん「関連する話として、日頃から渡壁さんのプライベートの話も聞いていたので、家族構成などを知っていました。伝えてもらっておくと、困ったことが起こった時にサポートしやすい。渡壁さんは自分の話だけでなく、まわりの人のこともうまく引き出してくれるので、お互いがサポートしやすいんですよね」
牧野さん「私は入社してから駅員、車掌、新幹線の企画部門を経験し、現在は人事を担当しています。きょう、このようにみなさんと女性活躍推進のテーマで話ができることも、20~30年前に比べてJR西日本の女性社員が増えてきたからだと思います。
人事の立場として感じるのは、徐々にフレックス制度、短時間勤務制度、短日数勤務制度(※ひと月の労働日数を2日または4日減らすことができる制度。(乗務員は8日も適用可能))などを使っていく人が増えてきていることです。会社の環境が変わってきている段階なんだ、と実感しています。
いろいろな先輩方がいて、さまざまなリーダーが増えていくなか、メンバーがそれぞれのいいところを見ながら育っていける環境があるのは心強いなと思います」
「変化」できる会社が人財を育て、成長する/JR西日本の富澤五月さん、渡壁なぎささん、牧野早希さん、髙須優子さん(後編)に続きます。
(聞き手:田中博子)
【プロフィール】
富澤 五月(とみざわ・さつき)
西日本旅客鉄道株式会社鉄道本部CS推進部 部長
1993年入社。人事部門、車掌区長・駅長などを経験。2021年6月より現職。
渡壁 なぎさ(わたかべ・なぎさ)
西日本旅客鉄道株式会社鉄道本部CS推進部 課長代理
2007年入社。営業部門(教育・宣伝・ネット予約システム開発)などを経験。2019年6月より現職。
牧野 早希(まきの・さき)
西日本旅客鉄道株式会社人事部(人材育成・ダイバーシティ推進)
2011年入社。乗務員、新幹線の企画部門などを経験。2020年11月より現職。
髙須 優子(たかす・ゆうこ)
株式会社JR西日本カスタマーリレーションズ 社長(JR西日本より出向中)
1993年入社。車両部門、技術開発総務、CS推進などを経験。2021年6月より現職。