健康経営優良法人の認定を目指す企業経営者にヒントを――。そんな思いのもと、連載中の「健康経営のススメ!」。
これまでに認定を受けた企業や、積極的に健康経営を推進している企業の先進事例のほか、コロナ禍で社会的課題となった従業員のストレス対策として、産業医のアドバイスを有効活用する企業の事例など、できるだけ具体的なノウハウに焦点を当てている。
第11回は、鹿児島県いちき串木野市に本社を構える濵田酒造株式会社。従業員は316人。経済産業省の健康経営優良法人2022に認定された。代表取締役社長の濵田雄一郎(はまだ・ゆういちろう)さんに聞いた。
健康増進と社会貢献へ...歩行距離で寄付する「海童ウォーキング」
――健康経営を導入されたきっかけをお教えください。
濵田雄一郎社長「当社は『敬天愛人』を社是に掲げ、『全従業員の物心両面の幸せを追求すると同時に、人類・社会の進歩発展に貢献する』ことを目指し、『全員参加の経営』に取り組んでいます。『全員参加の経営』には、従業員ひとり一人の健康であることが第一です。ラジオ体操は30年以上前から行い、従業員とその家族やお取引先が一緒になって行うウォーキングイベントも昨年(2021年)で11回目を迎えました。このように、日頃から従業員の健康増進につながる活動が盛んな会社であるゆえに、『健康経営優良法人認定』の認定制度を知った時にすぐに認定申請することを決めました」
――女性が働きやすい職場づくりに取り組んでいらっしゃいます。
濵田社長「女性が働きやすい職場環境づくりの一環として、2015年より毎年6月の定期健康診断時に発症リスクの高い乳がん検診を、2019年から甲状腺検査をそれぞれ、30歳以上を対象にして全額会社負担で行う制度を導入しています。約8割が受診しています。今後も、検査の必要性の周知を図ることで、健康で働きやすい職場環境づくりに取り組んでいきたいと思います」
――コロナ禍にはどのように対応されていらっしゃいますか。
濵田社長「感染拡大防止策として、テレワークの推進、特別休暇付与、PCR検査・抗原検査の導入など、従業員の感染予防および事業所内での感染拡大防止することで、誰もが安心して働ける環境づくりに取り組んでいます」
――また、従業員の参画意識を高めるために、フィールドワークを取り入れているそうですね。どのような取り組みでしょうか。
濵田社長「従業員の健康増進と社会貢献を目的に、ウォーキング大会『海童ウォーキング』を毎年3月に実施しています。2022年で12回目となりました。従業員・従業員の家族・協力会社の方々が参加し、15km・25km・42kmの各コースを自身の体力にあったコースを選択して歩く企画を実施してきました。初参加で15kmをようやく歩いた参加者が、回を重ねるごとに力をつけて長距離にチャレンジし、ついに42kmコースを完歩するという感動的なエピソードが生まれました。本大会では11年にわたって、東日本大震災復興支援として、参加者ひとり一人の歩行距離1kmにつき10円を被災地に寄付してきました。
さらに、健康増進意識の高まりから、年代や性別、スポーツ経験を問わずに誰もが参加できるソフトボールチーム『海童ジャパン』やソフトテニスチーム『チーム海童』といったクラブ活動が自発的にスタートしました。
いずれも、体力づくりや健康増進意識の高まりだけでなく、従業員のご家族やお取引先の皆さまには当社の取り組みを知っていただくよい機会となっています」
健康経営は「敬天愛人」の実践に通じる
――「海童ウォーキング」はとりわけ力を入れた活動ですね。
濵田社長「そうですね。関連する話として、コロナ禍での開催となった『海童ウォーキング』は2021年から感染対策として、一同が集まる方法を見直しました。約2か月の期間に、各個人が好きな時間に好きな場所を目標距離に合わせて、ウォーキングする方法に変更したのです。その結果、昨年(2021年)は、312人の参加者が約1万9000km歩行し、約19万円の寄付につながりました。
今年(2022年)は100km・200kmコースも新設し、『人とecoに貢献する一歩』としてテーマを設け、東日本大震災復興支援の取組みから国内災害に加え、新型コロナ対策への支援や環境保全など、幅広い社会貢献につながる活動に発展させました。
今後もこの取り組みを継続しながら、日常的な運動不足解消・健康増進の意識向上や参加者の増加を目指します」
――最後に、濵田社長の信条・座右の銘を教えてください。
濵田社長「私の信条・座右の銘は『敬天愛人』です。『敬天愛人』は西郷隆盛南洲翁の座右の銘として知られていますが、弊社では先代社長で四代目の濵田光彦が1951(昭和26)年に社是として掲げ、以降、弊社は事業活動に邁進してきました。
私は、1991年に京セラ創業者の稲盛和夫氏と出会い、『敬天愛人』を『全従業員の物心両面の幸せを追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する』という経営哲学の実践で、世界的企業として成長発展されていることに非常に感銘を受けました」
濵田社長「それ以来、弊社も『社是』を、『理念』『方針』『目標』『計画』と『濵田フィロソフィ』として落とし込み、『全員参加の経営』の実践に取り組んでいます。
具体的に『方針』では『元気・勇気・やる気(三気)で幸せにする、幸せになる』を掲げています。『元気』とは前向きな姿勢、『勇気』とは真実を見つめる力、やる気とは『実行力・継続力』を指します。ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために力を発揮させるには、心身の健康は欠かせません。健康経営の取り組みは、『敬天愛人』の実践にほかならないと考えています。
これからも『本格焼酎を真の國酒へ、更には世界に冠たる酒へ』という計画の実現に向け、全従業員と共に事業に取り組んでいきたいと思います」
――ありがとうございました。
【会社概要】
濵田酒造株式会社
代表取締役社長 濵田雄一郎さん
私ども濵田酒造グループは、明治元年にいちき串木野市に蔵を構え、この地とともに歩んでまいりました。現在は伝兵衛蔵・傳藏院蔵・金山蔵という3つの蔵を有し、各々の蔵が『伝統』『革新』『継承』という弊社の核となる焼酎づくりの理念を体現しています。
いちき串木野市は、海・山・歴史・文化とどこを切り取っても語るべきものが存在するすばらしいところです。その中には、明治維新を支えた串木野金山や薩摩藩士たちが英国留学に旅立った羽島など、薩摩の歴史を語る上での要所もあります。おいしい焼酎をお客様に届けるとともに、そうした地域の歴史・文化を継承していくこともまた、この地に育まれた弊社の使命だと考えております。金山蔵において鹿児島の歴史や文化などを学べる『薩摩金山私学校』を開催しているのも、そうした思いからです。
また、私たちには『本格焼酎を真の國酒へ、更には世界に冠たる酒へ』という長年の夢があります。本格焼酎には500年もの長い歴史があり、それは鹿児島のみならず『日本』を背負うにふさわしい文化性と大衆性を兼ね備えています。ウイスキーのように世界中で本格焼酎を酌み交わすのが当たり前になってほしい――それが焼酎屋としての私たちの願いです。それを実現するためにも、弊社は伝統の味を守る一方で、おいしい焼酎を追究し続けています。3つの蔵は特性が異なるので、さまざまな方向から焼酎の奥深さを表現することができるのです。一方で、企業という枠を越えて様々な組織や人々とも繋がり、手を取り合って夢の実現に向けて動き出しています。
いちき串木野市から全国へ、そして世界中へ。かつて羽島から大海原に漕ぎ出した勇気ある薩摩藩士たちのように、弊社はこれからも地元への感謝の気持ちと創業時から受け継いできた濵田スピリットを胸に、挑戦し続けます。
・本社所在地 鹿児島県いちき串木野市
・主な事業内容 酒類醸造・販売
・従業員数 316人
・健康経営優良法人 2022(中小規模法人部門) 認定
https://www.hamadasyuzou.co.jp/