健康経営優良法人の認定を目指す企業経営者にヒントを――。そんな思いのもと、連載中の「健康経営のススメ!」。
これまでに認定を受けた企業や、積極的に健康経営を推進している企業の先進事例のほか、コロナ禍で社会的課題となった従業員のストレス対策として、産業医のアドバイスを有効活用する企業の事例など、できるだけ具体的なノウハウに焦点を当てている。
第10回は、愛知県蒲郡市宝町に本社を構える山八商事株式会社。従業員は34人。経済産業省の「健康経営優良法人2022(ブライト500)」に2021年に引き続き認定された。代表取締役の鈴木俊介(すすき・しゅんすけ)さんに聞いた。
「ブラック企業ではいい人材は残りません」
――健康経営を導入したきっかけを教えてください。
鈴木 俊介さん「私は2001年、23歳で代表取締役に就任しました。ほどなくして、健康を原因とする社員の入れ替わりは、引き継ぎなどの準備を踏まえた入れ替えとは違い、会社の負荷が大きいことを実感しました。そこで、職場では、アクシデントが発生しにくい環境を作ることの重要性を強く認識したのです。その後、『健康経営』という言葉に触れて、それまで個別に行っていた取り組みを社員自らが考え、制度化させるステップアップの機会にすることを決意しました」
――健康経営の導入に際しては、社員の健康と業績の関連性を意識されたそうですね。
鈴木さん「アクサ生命が提供する『健康習慣アンケート』を活用し、社員が回答したアンケート結果をまとめたフィードバックレポートを見て、社員の不健康は会社のコスト増加につながるということを再認識したのです。また逆に、少しのコストをかけて改善すれば、全体的なコストの低下につながるということを意識して、さまざまな取り組みを導入しました。
まずは、アンケート結果を分析し、期ごとの会社としての重点施策を設けました。そして、各個人の健康課題を明確にして、個人が改善目標を設定。そのうえで、会社が目標達成を支援する『サラダランチ』『スタンディングデスク導入』『スポーツクラブ利用補助』『事務所内にエクササイズ用具設置』などの施策を導入しています。なお、社員のアブセンティーイズムコスト(体調不良による欠勤)やプレゼンティーイズムコスト(体調による生産性低下)の把握にも努めています」
――仕事の成果を出すために、どのような考え方を大事にされていますか。
鈴木さん「社員の能力は急には向上しません。研修や自己研鑽などで自身の能力を高めていくためには、仕事を効率よく終わらせる環境の整備が必要です。成果を出すためには、やはり業務効率を上げることがキーポイント。長時間労働すれば、反動はフィジカル、メンタル両面で発生し労働効率が低下します。一方、業務効率を上げれば負担も減り、コストも減り、その余裕から何かが生まれるはずです。ブラック企業ではいい人材は残りません。会社というチームを強化するためには、いかに社員全員がポジティブな状態で就業してもらうか――これが重要なテーマであると私は考えています」
健康経営導入後、リフレッシュ目的の有休取得者増えた
――健康経営の具体的な取り組みを教えてください。
鈴木さん「『予防』と『未病』に分けて取り組みを行っています。『予防』の面では、以下の6つの施策を取り入れています。
・定期健康診断受診率100%
・各種オプション検査費用の会社負担
・再受診勧奨・業務時間内受診
・保健師による社内での個別保健指導
・インフルエンザ予防接種実施
・メンタルヘルスチェック
そして、「未病」の改善――つまり、心身をより健康な状態に近づけるために4つの施策があります。
・ゴルフコンペ開催
・スポーツジム利用の促進
・禁煙への取り組み補助
・運動指導アプリの導入
さらに、新型コロナウイルス感染症への対応として、『即時対応』だけでなく、あらためて『業務の見直し』を行い、『不安を安心に』変える取り組みを推進しました」
――「即時対応」、「業務の見直し」、「不安を安心に」変える取り組みとは?
鈴木さん「まず、『即時対応』では、マスクの支給と、検査キットの用意を行いました。
・マスク不足への対応
-会社としてコンテナ単位でマスクを企画・輸入
-社員には家族分含めて、現在もマスク支給を継続
・抗原検査キットを購入・検査を実施
-アルコール消毒剤を確保・入退室管理含めて事務所管理を強化
-外部との接触機会の多い社員へはPCRキットを使用
次に、『業務の見直し』は、次のとおりです。
・営業方法の見直し
-営業員の出張制限の設定及びWeb商談への切り替え
-拠点別の朝礼もWeb朝礼に切り替え、全社統一のきっかけに
・残業の制限及び効率化の促進
-事務所19時施錠
-テレワークの導入・デスクワークの効率化も同時に実施
・コミュニケーションツール
-社内メッセージツール・SNSの活用
そして、『不安を安心に』変える取り組みも欠かせません。
・定期的な抗体・抗原検査を実施
-会社全体としての意識維持-外部接触が多い社員は定期的な抗原検査実施
-病欠からの復帰も抗原検査利用
・テレワークの継続・恒常化
-コロナ以外のリスクも想定して
・万が一のことも備えてBCPの策定
-取引先及びビル入居先への影響を最小化
・妊婦社員を守る体制
-攻めの引継ぎを通じてリスクも下げる
こうした取り組みを通じて、感染症対策の強化を図りました」
――2021年には新たな多様な取り組みを導入されました。
鈴木さん「新型コロナウイルス感染症に伴う不安に対応して、『ワクチン休暇制度』を導入し、『抗原検査』対象者を同居家族まで拡大しました。また、スポーツ用品販売店と提携して、運動促進を目的としたスポーツ用品購入には補助制度を導入しました。柔軟な働き方を導入したことが契機となって、女性の働きやすい環境作りも進めました」
――社員の意識にも変化が見えてきたようですね。
鈴木さん「有給休暇の取得率は健康経営の導入後、2019年から2020年にかけて23.7%アップしました。取得理由も体調不良が減り、リフレッシュ目的での取得が増えています。社員が健康でいることで、日常の行動にも周囲への配慮や思いやりがみえるようになっています」
――今後の目標を教えてください。
鈴木さん「男性の育児休業取得の向上と女性社員の積極登用です。そして、そのための障壁を取り除いていきたいと考えています。絶えず情報発信、他社の情報受信、そしてよりよい施策は積極的に取り入れて、最終的には業績の向上と、企業フィロソフィー『Enrich Your Life』――『人生を豊かにする会社』を体現していきたいと思います」
――ありがとうございました。
【会社概要】
山八商事株式会社
代表取締役 鈴木俊介さん
「人生を豊かにする会社」という経営理念のもと、寝具インテリア用品を企画・販売する繊維事業と、商業不動産開発を行う不動産事業に取り組んでいます。会社を支える社員が健康であってこそ、その理念を体現できるというフィロソフィーが脈々と受け継がれてきました。山八商事株式会社を中核とするワイズグループの原点は、1922年(大正11年)創業の「鈴権商店」までさかのぼります。私の曽祖父が起こした会社の原点は、浴衣や下着の生地となる綿布の販売でした。
その後、昭和の時代に入り人々の着衣が和装から洋装に変わっていくにつれ、毛織物業に参入することでいち早く紳士服地を手がけ、やがてインテリア生地の生産に事業領域を拡げました。
創業から今日まで幾度かの戦禍や時代の波を乗り越え、企業は存続。1967年に現在の山八商事を設立。寝装品の企画・製造を中心としたホームファッション事業を中核に据えて事業を行い、2018年のグループ再編を経て、今に至っています。不動産事業において商業テナント開発を行っていることで、流通業界や物流業界と新たなリレーションができました。このリレーションにより、自社のホームファッション事業との相乗効果が生まれ、他の不動産企業と比較して私たちの競争優位性につながっています。
医療や介護で取り上げられることの多いQOL(Quality of Life)という言葉は、人生の終焉の迎え方を表すイメージが強いのですが、私たちはQOLを、私たちが生きていく上で「人生の質への満足度」を表す指標と考えます。人生100年時代と言われるように長寿が当たり前になった今、いかに健康を保ちつつ物心両面で豊かに年を重ねていくか、そのためのQOL向上への意識を強く持っています。
私たちワイズグループは、2018年のグループ再編を機に「Enrich Your Life」という新たな企業フィロソフィーを掲げました。「人生を豊かにする会社」、この先もその想いをひとつひとつ形にしていくことで、豊かな生活創造企業としてQOL向上に貢献していきたいと考えています。
・本社所在地 愛知県蒲郡市宝町
・主な事業内容 寝具・インテリア製品製造・販売 不動産開発・賃貸業
・従業員数 34 名
・健康経営優良法人 2022(中小規模法人部門) 認定
https://ys-group.co.jp/