最近、あちこちで「ジョブ型雇用」という言葉を耳にします。経団連も春闘に向けた方針発表の際に、「ジョブ型雇用」のことを「魅力的」とか「検討が必要」などと話題にしていました。
やたらと耳にするようになった「ジョブ型雇用」ですが、どうやら使っている人によって言葉の意味やニュアンスが、ちょっとずつ違っているようです。そのためか、どういうものか、いまひとつピンとこないところがあります。
「ジョブ型雇用」って、実は「主婦業」に通じるのでは?
世間で言われている「ジョブ型雇用」の大まかな特徴を整理すると、(1)職務内容が限定されていること、(2)人の能力に合わせて職務をあてがうのではなく、職務ありきで人をあてがうこと、(3)会社都合で配置転換できないこと、でだいたい一致しています。
ほう。それって、そのまま世の中の「主婦業」じゃないですか?
料理に掃除に洗濯に、と職務内容はきっちり決められています。雨の日も風の日も、熱が出ても、家事育児は妻の担当です。遂行する能力を備えていても、夫にあてがわれることはなく、家事育児という仕事ありきで、妻にあてがわれます。家事育児を夫に代わってほしくても、配置転換なんかありません。
私自身はいま、主夫として家事を担っていますが、これは自ら選択した道です。しかし、世の主婦は必ずしもそうではありません。夫婦間で話し合う機会もないまま、家事育児を担うのは妻、と決められてしまうケースがたくさんありますから。
自分で選んだのなら、職務が限定されることはプラスでしょう。自分が望んだ職務に専念できます。しかし、選択する余地もないままに職務が固定されてしまうとしたら窮屈です。
主婦業にあてはめながら「ジョブ型雇用」の特徴をなぞってみたものの、何だかしっくりきませんね。むしろ、家庭での現状を見ると、どこか融通が利かない仕組みに映ります。一方で、これまで日本の会社が採用してきた雇用制度は、「メンバーシップ型雇用」とよばれるそうです。その特徴は「ジョブ型雇用」と真逆です。
従来型の「メンバーシップ型雇用」、意外といいのでは?
「メンバーシップ型雇用」の特徴は、(1)職務内容が限定されていないこと、(2)職務ありきで人をあてがうのはなく、人の能力に合わせて職務をあてがうこと、(3)会社都合で配置転換できること、です。
思いのほか、すばらしい制度ではないですか! 家庭内もメンバーシップ型にしてはどうでしょう?
職務内容は限定されていないわけですから、夫にも率先して家事育児をしてもらいましょう。参加とか協力ではありません。夫が主体となって行うのです。あなたには、家事育児を行う能力が十分備わっています。
なぜって?
妻が作った料理に文句をつけ、あれをやれ、これをやれと指図するのは、自分もできるからですよね? だったら、自分でやればいいのです。まさか、能力もないのに妻の料理に文句をつけ、家のことを偉そうに指図しているわけじゃないですよね?
そして、配置転換、いいですね。やりましょう。配置転換。これから家庭におけるあなたの職場はキッチンです。掃除も洗濯もおむつ替えも、よろしく頼みます。これまで妻がやってきたことを今度は夫がやるのです。ジョブローテーションってやつです。
それにしても、こんなにすばらしい「メンバーシップ型雇用」をやめて、なぜ会社は「ジョブ型雇用」を目指すのでしょう。メンバーシップ型でいいじゃないですか。
でも、そうか......。メンバーシップ型は、いまの職務が気に入っていても、会社の都合で強制的に替えられちゃう可能性もありますね。職務無限定で、能力が備わっている人にどんどん任せていくとなると、できる人は一気にパンクしてしまいそうです。うーむ......、融通が利きすぎるのも厄介ですね。そう考えていくと、ジョブ型がいいとかメンバーシップ型はダメだとか、一概には言えなさそうです。
そもそも、世の中には料理が得意な人もいれば、子どもと一緒に貴重な時間を過ごしたいという人もいるわけです。そういう場合、勝手に家庭内ジョブローテーションなんかされたら、迷惑極まりないというもの。みんながみんな、働きたいわけでもなければ、家事育児がしたいわけでもありませんし。
やっぱり大切なのはその人の意思ですね。人には意思があり、希望があるのです。家庭も会社も、いろんな人の意思や希望が絡み合って成り立っています。人の意思をないがしろにするのであれば、「ジョブ型雇用」だろうが、「メンバーシップ型雇用」だろうが、上手くいかないんですよ。きっと。
(川上敬太郎)