ついツッコミを入れたくなるビジネスマナー
そういえばお釣りをもらう時に、「前から失礼します!」と言われて不思議に思うこともあります。カウンター越しでも前から渡すのが当然ですし、むしろ後ろから渡す方が失礼のような......。
会社でも、時々不思議な慣習を見かけます。たとえば、名刺交換時のビジネスマナー。相手より先に差し出すのが礼儀だと教えられているのか、名刺を内ポケットから、ブンっとすごい勢いで目の前に差し出されて驚いたことがあります。その手さばきたるや、早撃ちガンマンの如し。
もし同じビジネスマナーを仕込まれた人同士が名刺交換するとどうなるのか? 超スピードで同時に差し出された名刺が空中で激しくぶつかり合い、「あぁ!」と宙に舞うかもしれません。手と手が激しくぶつかって骨折などしようものなら労災適用になるので、譲り合った方がいいですよ。
あと、名刺交換で相手よりも低く差し出すという流派も見たことがあります。これも流派を極めた同門が対決すると、互いに譲らず相手の下へと潜り込みあいながら、地面スレスレまで腰をかがめることになるでしょう。自分のような腰痛持ちの人は、やはり労災申請することになりそうです。
そんなふうに、せっかくのビジネスマナーも、ヘンにこだわると相手に意図が伝わらず、奇妙な姿をさらすことになりかねません。
営業職だった20代のころ、自分が運転する社用車で、小柄な女性社長を得意先にご案内したことがありました。社長同行に緊張しながら、運転席後ろにある上座のドアを開けると、社長は軽やかな声で言いました。
「あら、いいのよ。私、助手席が好きなのよー」
下座である助手席にサッと乗り込む社長。社用車はコンパクトなつくりだけに、運転席の真後ろはかなり窮屈です。結局、社長の次に偉かったガタイの良い上司が、体を縮めて上座に座ることになりました。
助手席でゆったりと景色を眺める社長とは対照的な、バックミラーに映る窮屈そうな上司の姿。笑いをこらえながら運転するうちに緊張がほぐれ、社長の得意先訪問は無事に終了しました。
必要だからこそ生まれたはずのビジネスマナーや慣習ですが、なかには「それって、ダレトクなの?」を思ってしまうものもあるわけで、頑なになるよりはケースバイケースがよろしいように思います。
(川上敬太郎)