相手より先に名刺出したがる「ビジネスマン」 2番目に並ぶ人を案内する「レジ店員」...不思議な慣習はダレトクなのか?【vol.9】(川上敬太郎)

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ついツッコミを入れたくなるビジネスマナー

   そういえばお釣りをもらう時に、「前から失礼します!」と言われて不思議に思うこともあります。カウンター越しでも前から渡すのが当然ですし、むしろ後ろから渡す方が失礼のような......。

   会社でも、時々不思議な慣習を見かけます。たとえば、名刺交換時のビジネスマナー。相手より先に差し出すのが礼儀だと教えられているのか、名刺を内ポケットから、ブンっとすごい勢いで目の前に差し出されて驚いたことがあります。その手さばきたるや、早撃ちガンマンの如し。

   もし同じビジネスマナーを仕込まれた人同士が名刺交換するとどうなるのか? 超スピードで同時に差し出された名刺が空中で激しくぶつかり合い、「あぁ!」と宙に舞うかもしれません。手と手が激しくぶつかって骨折などしようものなら労災適用になるので、譲り合った方がいいですよ。

   あと、名刺交換で相手よりも低く差し出すという流派も見たことがあります。これも流派を極めた同門が対決すると、互いに譲らず相手の下へと潜り込みあいながら、地面スレスレまで腰をかがめることになるでしょう。自分のような腰痛持ちの人は、やはり労災申請することになりそうです。

   そんなふうに、せっかくのビジネスマナーも、ヘンにこだわると相手に意図が伝わらず、奇妙な姿をさらすことになりかねません。

   営業職だった20代のころ、自分が運転する社用車で、小柄な女性社長を得意先にご案内したことがありました。社長同行に緊張しながら、運転席後ろにある上座のドアを開けると、社長は軽やかな声で言いました。

「あら、いいのよ。私、助手席が好きなのよー」

   下座である助手席にサッと乗り込む社長。社用車はコンパクトなつくりだけに、運転席の真後ろはかなり窮屈です。結局、社長の次に偉かったガタイの良い上司が、体を縮めて上座に座ることになりました。

   助手席でゆったりと景色を眺める社長とは対照的な、バックミラーに映る窮屈そうな上司の姿。笑いをこらえながら運転するうちに緊張がほぐれ、社長の得意先訪問は無事に終了しました。

   必要だからこそ生まれたはずのビジネスマナーや慣習ですが、なかには「それって、ダレトクなの?」を思ってしまうものもあるわけで、頑なになるよりはケースバイケースがよろしいように思います。

(川上敬太郎)

川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)
川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家
男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌「月刊人材ビジネス」営業推進部部長兼編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関「しゅふJOB総合研究所」所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。
雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する「働く主婦・主夫層」の声延べ4万人以上を調査・分析したレポートは200本を超える。
NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」などメディアへの出演、寄稿、コメント多数。
現在は、「人材サービスの公益的発展を考える会」主宰、「ヒトラボ」編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。
1973年生まれ。三重県出身。
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