エアコンや空気清浄機などの商品が代表的な、総合空調メーカーのダイキン工業株式会社。女性活躍の取り組みなどにも積極的で、2020年度には7年連続で8度目となる「なでしこ銘柄」に選定された。
もともとは男性ばかりの機械メーカーで、特に研究や開発などの部門は女性が少なく管理職もほとんどいなかったが、近年は技術畑で活躍する女性リーダーも増えてきているそうだ。
そのうちの一人が、テクノロジー・イノベーションセンター IAQ技術グループ主任技師 花岡早苗(はなおか・さなえ)さん。現在は、より健康や快眠につながる空気の実用化を目指して、技術者チームをリードしている。その取り組みやキャリアについて、聞いた。
より消費者に近い商品開発に携わりたい
――ダイキン入社前まで、まったく違った技術分野のお仕事をされていたそうですね。キャリア転換の経緯と、現在担当されている分野について教えてください。
花岡早苗さん「前職では、光学デバイスの設計に関わる仕事をしていました。具体的にはDVDやBlu-rayなどのディスクを読み取る部品を設計し、社内の商品開発部門や取引企業に納品するのが仕事。BtoBで、自分の仕事がどんなふうに企業や社会に役立っているかという点がイメージしづらかったこともあり、もっと消費者に近い商品開発に携わりたいと思っていました。
2010年にダイキン工業に中途入社し、念願だった空気清浄機の商品開発に5年ほど携わりました。その後、研究開発拠点のテクノロジー・イノベーションセンターが設立されたタイミングで異動。現在、IAQ(室内空気質、Indoor Air Quality)技術グループ内で、『健康になる空気』『快眠できる空気』など、生活を変える新たな空気を創りだす取り組みが始動しており、私は、主任技師という立場でこの新領域を担う技術者チームをリードしています」
――具体的にはどのようなことに取り組まれているのでしょうか。
花岡さん「これまでは、集塵、脱臭、除菌など空気から有害物質を除去する技術に力を入れてきました。一方で、新たに空気に有用なものを付加する技術領域を加え、安心・安全の次の空気の価値として、健康を提供するという研究に着手しています。たとえば、すでにルームエアコンの機能で睡眠の質が改善されるような制御技術が搭載されていますが、今後さらに、病気を事前に防いだり、疲れにくくしたりといったことも、空気の力で実現しようとしています」
――そのための技術者チームをリードされているとのことですね。
花岡さん「この新領域には、医療、化学、バイオ、機械、情報など、幅広い分野が関係しています。私がリードするチームは14人が所属。医学部出身者をはじめ、さまざまなバックグラウンドや専門性をもつメンバーが在籍しています。それぞれの専門分野のことは、個々のメンバーのほうが私よりもはるかに詳しいので、私ができることは、メンバーの専門性をうまく引き出してあげること。メンバーが迷ったり、悩んだりしている際に、話を聞きながら一緒に情報を整理して、方向性を自らが見いだせるようにしています」
「チームリーダー」への不安でジタバタ!
――それぞれの技術分野は専門性が高く独立した領域のように思えます。チームビルディングなどで心がけていることなどはありますか。
花岡さん「これから実現しようとしている空気の新しい価値は、ひとつの技術では実現できないものです。まったく違う技術領域との連携が必要になってきますが、スペシャリストである技術者は、自分の技術領域以外のことをあまり知らなかったり、新しい経験や学びに二の足を踏んだりすることもあります。メンバー同士が技術領域を超えて、積極的に議論して答えを見つけていくことが理想ですが、まだそこまでには至っていないのが実情です。そこで、課題を設定して、自分たちの技術領域で何ができるかをメンバーでディスカッションしていく場を提供するなどして、相互理解を深めています。「技術者同士が領域を超えて、積極的に議論して答えを見つけていくことが理想」と、花岡さんは話す。
私の専門分野は機械ですが、機械を動かすためには電気やデジタルなどいろんな技術領域の知識が必要で、私自身、その時々で他の技術も学んできました。こうした経験が、専門領域同士をつなげていく役割を担ううえで、とても役立っています」
――2019年からリーダーのポジションに就いているということですが、キャリアアップにはどのように向き合ってこられたのでしょうか。
花岡さん「これまでキャリアアップしたいと思ったことがなく、周りの方のサポートがあって、ここまで来たというのが正直なところです。初めてリーダーに推薦してもらったときは、自分にリーダーが務まるのかという不安のほうが大きかったですね。引き受ける直前まで後ろ向きで、ジタバタしていました(笑)。
当時、会社が主催する女性リーダー研修を受けていましたが、そこで出会った先輩の女性リーダーとの出会いにも影響を受けました。彼女もリーダーになるときに、散々悩んで「やってみてうまくいかなかったら、やめることもできる」という気持ちで臨んだと話してくれました。それまではリーダーになる女性は、積極的で強いというイメージが大きかったので、そんな人たちばかりではないということが分かり、私自身が一歩踏み出す際に、とても勇気づけられました」
いろいろな女性リーダーの「モデル」を見せることが大事
――ご自身の経験から、女性活躍の促進に効果的な取り組みがあれば、教えてください。
花岡さん「いろんな女性のリーダー像を見せて、リーダーにもいろんなタイプがある、ということを知らせる取り組みは大切だと思います。以前の私のように、強く積極的な女性のリーダー像しかなければ、『自分には無理だ』と思ってしまう女性もいると思うからです。
私も、自分では強いリーダーではないと思っているのですが、人から見たら、『パワフルだね』と言われることもあります。初めから強いリーダーなのではなく、そこに至るまでの過程も見せていけたら、周りも勇気づけられると思いますね。 ダイキン工業の女性リーダー研修では、すでにリーダーになっている人にインタビューするというカリキュラムがあります。最近、私がインタビューを受ける側になりましたが、そういった場でも、リーダーになる自信がなかったことや不安な思いがあったことなどを、包み隠さず伝えるようにしています」
――今後のキャリアや目標についてお聞かせください。
花岡さん「いまのところ、将来の特定のポジションやキャリアの目標があるわけではありません。目の前に『お客様に空気で新たな価値を提供したい』という確固とした目標があり、それを実現するためのポジションが、いまのリーダーのポジションだと思っています。この役割を全うすることが目下の目標です。
自分が実現したいことに応じて、必要なポジションは変わってくると思います。今後働くなかで新たな目標ができたときには、またそれを実現するためのキャリアアップを目指したいと思っています」
(聞き手:戸川 明美)
プロフィール
花岡 早苗 (はなおか・さなえ)ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター
IAQ技術グループ 主任技師
大学卒業後、電機メーカーで光学デバイスの設計を経験し、2010年ダイキン工業に入社。空気清浄機の先行開発から商品化に携わった後、テクノロジー・イノベーションセンターのIAQ技術グループで室内の空気質に関わる技術の研究開発を担当。現在は主任技師として、 グループのメンバーとともに"健康になれる空気"や"快眠できる空気"など新たな空気の価値創造を目指す。15年11月から現職。