2022年度4月度入社の採用から、選考段階で名前や性別、住所、写真を求めないダイバーシティに配慮した取り組みを始めた三菱ケミカル株式会社。ほかにも、公募制度の導入や同性パートナーへの制度適用も開始している。
「女性やLGBTQだけでなく、国籍や年齢層、キャリアバックグラウンドの多様性と一層の働きやすさを推進したい」と話す人材組織開発部 部長の松本 麻衣子(まつもと・まいこ)さん、労制人事部 チームリーダーの久保田 祥(くぼた・しょう)さんに、その取り組みを聞いた。
全社員が能力を発揮できる、働きやすい環境や制度づくり
――ダイバーシティ&インクルージョンや働き方や働きやすさという点から、取り組みを推進されているとうかがいました。女性活躍推進を後押しするような取り組みを、教えてください。
久保田祥さん「当社では、特定の層をターゲットにした働きやすさではなく、多様な人材、つまり全社員が能力を発揮できるよう共通して働きやすい環境や制度づくりを心がけています。労働時間の面で、個人の背景に応じて柔軟に働けるようにしているテレワークやフレックスタイム制はもちろんのこと、育児や介護との両立などに関しても、法定以上の踏み込んだ制度の整備を進めています。ダイバーシティ&インクルージョンの観点では、22年度4月度入社から採用の選考段階で、名前、性別、住所、写真を求めない配慮や、2019年からは同性パートナーに法律婚と同じ制度を適用するといった取り組みも始めています。
また、ワークライフバランスの面でいえば、転勤を回避するための『遠隔地勤務』を認めていることも特長のひとつです。人事制度改革の一環として、異動については基本的に社内公募を主体とする方針へ転換しています。たとえば、地方の勤務地にいる社員が、東京のポジションに応募して、そのまま地方に住みながら異動先で働くというような働き方もできるようになりました。これまでの生活スタイルを維持しながら、新しいキャリアに挑戦しやすくなり、社員がキャリアについて自ら考え、構築していける環境になっていると思います」
――女性活躍を推進するための体制や社員の意識改革という面では、どのような取り組みがありますか。
松本麻衣子さん「まず、前提として、ダイバーシティ&インクルージョンを経営戦略として位置付けたうえで、ひとつのステップとして、女性活躍推進を進めています。会社全体の方針に対し、どのように推進していくか、組織ごとにアクションプランを策定しており、その中に登用・採用計画も含まれます。こうした会社全体で推進する方針を定めたうえで、社内の意識醸成を図っています。
その取り組みのひとつとして、2018年に『ウィメンズカウンシル』を新たに設けました。『ウィメンズカウンシル』では、社長がスポンサー、各組織の代表者がメンバーとなり、女性活躍の課題の洗い出しや、課題解決に向けた施策の策定や実行などを促進しています」
――「ウィメンズカウンシル」から生まれた施策には、どのようなものがありますか。
松本さん「女性の声として聞こえてきたのが、女性の数が少なく『相談相手がいない』『ロールモデルがいない』という悩みでした。そこで、女性のネットワークを作る目的で、2019年は、拠点別、職種別で女性社員を対象とした対話会を開き、2020年には、この対話会をより大きな地域に広げた、エリア別の女性社員を対象としたワークショップを開催しました。また研修面でいえば、ライン長以上の社員にアンコンシャスバイアス研修を導入しました」
社員一人ひとりがD&Iを「自分事」にすることが大事
――総合化学メーカーというと、男性が多いイメージがあります。現在、社員数や管理職における女性の割合はどの程度でしょうか。また採用面での取り組みはいかがです?
久保田さん「三菱ケミカル単体では、全社員における女性の割合は15%弱となっています。技術職の割合が高いため、どうしても女性が少なくなっているのが現状です。また、管理職における女性の割合は、単体で4%となっています」
松本さん「本社(製造部門のオペレーター職除く)の採用活動においては、事業部門の女性の割合は比較的高く推移していますが、技術職の割合は微増にとどまっています。技術職には、化学、化学工学、機械・電気という3つの分野がありますが、こうした理系分野の採用における女性の割合は10%前後から20%となっています。
女性の技術職としてのキャリアについて認知を広めるために、就職説明会やキャリアセミナーなどで、女性社員がどのように活躍しているかを紹介したり、女性社員を交えた座談会を設けたりするなどの活動を行なっています。また、進路選択の際に理系分野でのキャリアをイメージできるように、中学・高校に技術職の女性社員が出向き講演するといった、より若年層へ向けた啓発活動もしています。『化学分野で、女性がキャリアをきちんと築いていける』ということは引き続き訴えていきたいですね」
――今後、課題や強化したい取り組みについて教えてください。
久保田さん「本社部門に限らず、製造部門においても、女性や高齢者ら、誰もが働きやすい職場環境を図るといった取り組みを行っていきます。具体的には、更衣室やお手洗いといった施設の一層の充実を図るために『爽快プロジェクト』とよばれるプロジェクトを推進しています。これからも、すべての社員が気持ちよく働けるような環境づくりを進めていきたいと思います」
松本さん「複数の会社が統合した会社なので、もともと、さまざまな考え方を受け入れる土壌があり、ダイバーシティ&インクルージョンの必要性も浸透しつつあります。一方でまだ、『会社や人事が進めるもの』とか『女性のこと』といった意識があると感じています。各職場や社員一人ひとりがダイバーシティ&インクルージョンを自分事としてとらえ、社員自身が参画し前進させていくような取り組みの強化が必要だと感じています。
ダイバーシティ&インクルージョンで目標としているのは、ジェンダーなどの属性の多様性だけでなく、一人ひとりの個性や内なる多様性が受容されて、活力やパフォーマンスを最大化することです。女性やLGBTQだけでなく、多様な国籍や年齢層、キャリアバックグラウンドなどの多様性を一層推進し、働きやすさを追求していきたいと思っています」
(聞き手:戸川明美)
プロフィール
松本 麻衣子(まつもと・まいこ)
三菱ケミカル株式会社 総務人事本部 人材組織開発部 部長
大学卒業後、ITベンチャー、ゲームメーカーを経て2019年に三菱ケミカルに入社し、採用グループマネジャーとして、新卒採用・キャリア採用を統括。2021年4月より現職。
久保田 祥(くぼた・しょう)
三菱ケミカル株式会社 労制人事部 チームリーダー
大学卒業後、2006年に入社。工場人事、給与、人事制度企画などを経験。2021年4月より現職。