「緊急事態宣言が開けて、やっとドライブに行けると思ったのに...」
行楽シーズンを迎え、家族の楽しみに水を差すかのようにガソリン代が高騰している。
2021年10月4日には全国平均でレギュラーガソリンが1リットルあたり160円(石油情報センター調べ)になった。
いったい、なぜこんなに上がっているのか。これからも上がり続けるのだろうか。エコノミストたちの分析は――。
1リットルあたりレギュラー160円
ガソリン高騰問題を読売新聞(10月7日付)が1面トップで「ガソリン高騰160円 3年ぶり水準、原油上昇響く」という見出しを付け、こう報じた。
「ガソリンや灯油の価格が上昇している。資源エネルギー庁が10月6日発表した全国のレギュラーガソリンの平均価格(4日時点、1リットルあたり)は、前週より1.3円高い160円ちょうどとなり、5週連続で値上がりした。160円台は2018年10月以来、3年ぶり。原油価格の高騰が要因で、今後も値上がりが続きそうだ。
都道府県別では43都道府県で上昇し、横バイと下落がそれぞれ2県だった。灯油は18リットルが1783円で前の週から18円上昇。値上がりは5週連続だ。
原油は昨年秋から上昇基調が続く。新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、世界各国で経済活動が再開したことで原油需要が高まった。今年8月末に米南部に上陸したハリケーンで被害を受けた石油・ガス生産設備の復旧が遅れていることも影響している。
さらに10月4日、サウジアラビアやロシアなど主要産油国でつくる『OPECプラス』が11月に一層の増産は行わないことを決め、供給不安から原油価格は一段と上昇した。国際的な原油取引の指標となる先物価格は一時1バレル=79ドル台と約7年ぶりの高値となっている。
背景には欧州で天然ガス価格が急騰していることもある。脱炭素を推進するために各国は風力発電に力を入れているが、風量が不足して十分な発電ができず、天然ガス火力発電に頼らざるを得なくなっている。この結果天然ガスが不足し、代替燃料となる石油が世界的に買われている」
と背景を説明したあと、人々の暮らしや企業の業績に大きな影響を与えるとして、こう結んだ。
「原油高やLNG(液化天然ガス)価格の上昇で、ガス代や電気代も値上がりが続く。原油を原材料とするプラスチックや合成繊維などの価格も上昇しており、今後は企業収益に影響が出る可能性がある」
年末の世界的なコロナ再拡大を警戒した産油国
それにしても、主要産油国でつくる「OPECプラス」が原油の一層の増産を控えると決めたのはなぜだろうか。
新型コロナウイルスの世界的な第4波(編集部注:日本では第6波)の襲来を警戒したからだと説明するのは、独立行政法人・石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の上席エコノミスト野神隆之氏だ。
JOGMECの石油天然ガス資源情報の最新版(10月5日付)「OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が従来方針に基づき2021年11月についても日量40万バレル減産措置を縮小する旨決定(速報)」(JOGMEC石油・天然ガス資源情報ウェブサイト)で、こう説明した。
「世界的な新型コロナ流行の第3波は8月下旬前後にピークを打った後、沈静化しつつあるように見受けられるが、今後冬場に向け第4波が到来することをOPECプラス産油国は懸念していたとされる。第4波が到来し世界経済が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化する中で、産油国が減産措置の縮小を加速すれば、石油需給の緩和感から市場心理が急速に冷え込むことにより、原油価格の急落を招く展開となる恐れもあった。
このため、OPECプラス産油国としては、今般の会合では減産措置の縮小を踏みとどまるとともに、今後の新型コロナを巡る状況に対する展望が開けるまで、様子を見ることしたものと考えられる」
今後はどうなるのだろうか。
「今後の原油市場を巡る注目点としては、まず、11月1日に始まる(終了は翌年3月31日)米国などでの暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期の到来による原油価格の動向であろう。欧州当局者による、(脱炭素の)より厳しい地球環境規制導入の動きにより、2021年の欧州天然ガス価格、およびアジアのLNG(液化天然ガス)価格が、通常下落するはずの春場や秋場の時期でも十分に下落せず、史上最高水準に到達する場面が見られた。
また、(世界的な脱炭素の流れで減産されたため)石炭価格も高騰している。このようなことから、すでにパキスタン、バングラデシュ、中東諸国の一部は、価格が高騰した天然ガスの調達を見送る一方、発電部門における代替燃料として重油を含む石油製品の購入を推進し始めつつある。今後もこの流れに従って、発電用や冬場の暖房用石油製品の購入が進む結果、原油の価格に上方圧力が加わることが想定される」
つまり、天然ガスと石炭の価格が上昇した結果、ガソリンを含む石油の価格上昇という「エネルギーのトリプル高騰」が進むというわけだ。年末に向けてどうなるのか。その混乱に拍車をかけそうなのが、中国の動きだ。
「さらに、2021~22年の冬場に停電を回避すべく、発電部門向け燃料を確保するよう中国の韓正副首相が同国大手国有エネルギー企業に対し強く指示した旨を9月30日にブルームバーグ通信が伝えている。今後、同国企業が積極的に原油購入を行う結果、世界石油需給が一層引き締まることを通じ、原油価格が上昇する可能性があるとの見方も市場で発生している」(野神隆之氏)
これから大発生する米のハリケーンも要注意
もう一つの混乱要因が、これから大発生する米国のハリケーンだ。
JOGMECの野神隆之氏が続ける。
「また、11月30日まで大西洋圏ではハリケーンなどの暴風雨が1年中で最も発生しやすい時期である。冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期を控え、今後も暴風雨などが米国メキシコ湾地域に来襲することにより、沖合の油・ガス田関連施設での操業と原油生産への影響に対する懸念が市場で発生すれば、原油価格が上昇するといった展開となることもありうる。
原油、天然ガス、石炭および電力などのエネルギー価格が上昇することを含め、物価上昇率がこの先拡大するようであれば、米国金融当局は金融緩和縮小を加速せざるを得なくなるとの観測が市場で発生する。また、中国恒大集団の経営不安と中国不動産開発業界を巡る動向も、今後の中国と米国株式相場とともに世界経済および石油需要に対する市場の認識に影響を与える。その結果、OPECプラス産油国の減産措置をめぐる方針を再調整させる可能性もある」
中国の不動産大手、恒大集団のデフォルト問題も加わり、世界経済はお先真っ暗の状態が迫っているというわけだ。
みずほ証券商品企画部シニアテクニカルアナリストの中島三養子氏も「マーケットフォーカス 原油は7年ぶり高値、追加増産見送りと厳冬予想」(10月6日付)の中で、インフレ懸念が高まっていると警戒する。
「OPEC とOPECプラスは10月4日の閣僚級会合で、11 月も減産幅を日量40万バレル縮小する方針を確認した。米ホワイトハウスがインフレ懸念から、OPECプラスに対して追加の増産を要請していたため、市場では追加増産を検討するとの見方も高まっていた。これに反し、増産を見送ったことから需給ひっ迫観測が強まった。
OPECプラスの減産縮小の終了は2022年末の見通し。このペースが維持される場合、原油価格にはさらなる上振れ余地も。世界的な経済活動の再開による需要増や、米国企業の脱炭素化に絡む投資抑制、さらにハリケーン被害による供給減も加わっている。
また、天然ガス需給のひっ迫も原油相場の上昇圧力となっている。米ニューヨーク市場の天然ガス先物価格は歴史的な高値に。天然ガスは北半球の厳冬予想が重なり、暖房需要の増加が見込まれている。以上の点から、当面の原油市場は堅調に推移する見通し。一方、OPECプラスが追加増産に踏み切れば上値が重くなりそうだ。21年10~12月期の原油価格は、1バレル=60~90ドルを想定する。足元のインフレ懸念がエネルギー高によって強まるおそれがあろう」
(福田和郎)