「お昼時」の飛び込み営業 訪問販売の会社が「宣伝」しているのは商品じゃなくて自社の悪評?【vol.3】(川上敬太郎)

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   週末の夕食を終え、一家団らんでくつろいでいたら、一本の電話が鳴りました。こんな時間に何だろうと訝しく思いつつ電話に出てみると、

「お忙しい時間帯に恐れ入ります。不動産情報の案内でご連絡いたしました」

と、ややテンション高めで、とても丁寧な口調の勧誘電話でした。

   日曜日の夜8時。電話をかけてきた人も、本当は自宅で大河ドラマでも観てくつろぎたい時間のはず......。「お仕事ご苦労様です」という感情もなきにしもあらずですが、それより週末最後の「くつろぎタイム」を遮られた不快さのほうが上回り、耳寄りだったはずの不動産情報は、耳に入ることなく右から左へと流れ去っていきました。

  • 「ピンポ~ン」の呼び鈴に扉を開けると……
    「ピンポ~ン」の呼び鈴に扉を開けると……
  • 「ピンポ~ン」の呼び鈴に扉を開けると……

在宅率の高い「お昼時」「くつろぎタイム」にガンガン営業

電話セールスに「待ってました!」なんていうお客はいない
電話セールスに「待ってました!」なんていうお客はいない

   こんなこともありました。ある平日のお昼時。自宅でインスタントラーメンを食べていたら玄関のチャイムが鳴るのでインターホン越しに要件を聞いてみると、

「お忙しい時間帯に恐れ入ります。ご挨拶させていただきたくうかがいました」

と、とても丁寧で落ち着いた口調の人が玄関口にたたずんでいます。引っ越してきたばかりのご近所さんかと思い、表に出てみると、

「いま、こちらの商品のご案内で回らせていただいておりまして」

と、テレビCMやスーパーでもよく見かける乳製品を定期購入して欲しいという訪問販売でした。この時も商品説明が耳に入ることはなく、熱いうちにすすりたかったインスタントラーメンが、どんどんのびていく悲しさと悔しさだけが募りました。

せっかくのラーメンがのびてしまう
せっかくのラーメンがのびてしまう

   営業活動において、お客との接点をできるだけ多く作ろうと努力する気持ちはわかります。「お昼時」や夕食後の「くつろぎタイム」など、お客が家にいる確率が高そうな時間帯を狙うのも、会社が考えた戦術のひとつなのでしょう。

   しかし、その結果

「いやー、いいタイミングで来てくれました。欲しかったんですよ、コレ。ラーメンなんかのびてもかまわないので、ぜひとも説明を聞かせてください!」

なんて展開になることは、まずないでしょう。

   それより、たいていの場合、

「お昼時に割り込んでくるとはナニゴトよ(怒) そんな商品いらないし、せっかくのラーメンがのびてしまったじゃないか!」

と、なるのがオチです。

   「お昼時」や「くつろぎタイム」を狙って営業活動すれば、お客との接点は増えるかもしれませんが、そのたびに、

「当社は、お客様の都合を考えずにガンガン営業しまくる非常識な会社です!」

と、自ら「悪評」を宣伝して回っているようなものです。

   もし会社としては、「一件でも受注につながるのならそれで良い」と考えたとしても、そんな活動をやらされる社員の気持ちはどうなのでしょうか?

   さらに、わざわざ社員に「悪評」を宣伝させておきながら、一方でテレビCMなどにお金をかけて「好感度」を高めようとするなんて、やってることが完全に矛盾してませんか?

   会社としては、一件でも受注につながるならそれで良いと考えているのかもしれませんが、その一方でそんな活動に心から取り組みたいと思っている社員なんているのでしょうか。

街頭で見知らぬ人と名刺交換させる会社

   そんなことを考えていたら、ふと東奔西走していたサラリーマン時代に遭遇した光景を思い出しました。仕事中、都内の駅前を歩いていたところ、突然目の前に現れたのは、微笑みをたたえた20代前半とおぼしき女性。

「よろしかったら、名刺交換していただけませんでしょうか?」

   理由を尋ねると新入社員とのことで、

「会社の研修で、お会いした方のお名刺を頂だいしております!」

と明るく笑顔で答えてくれました。

   確かに、見ず知らずの人に名刺交換を頼むというのは、度胸をつける訓練になりそうです。また中には自身が新人だったころを思い出して、「大変だね」などと声をかけながら名刺を渡してくれる優しい先輩社会人もいるのかもしれません。

   そんな度胸試しと引き換えに獲得した接点が、新たな取引につながるようなことになれば、会社にとっては営業活動にもなって一石二鳥です。

   しかし、忙しいなか見ず知らずの会社の「社員研修」に巻き込まれて時間を費やし、名刺まで要求される側は迷惑です。周りを見ると、他にもあちこちで名刺交換をお願いして回る人の姿が......。「当社はこんな研修を社員に課しているブラック企業なんです!」と、明るい笑顔で自社の「悪評」を次々に宣伝しているように見えて、とても不気味でした。

   そんなことを思い出しながらスーパーで買い物をしていたら、目に入ってきたのはいつぞや「お昼時」に訪問販売を受けた乳製品。見た瞬間によみがえったのは、その時の不快な感情と伸びてしまったラーメンの悲しい記憶。

「よし、あの時のラーメン、今度こそのびる前にアツアツのまんま食べきろう」

   そう思い立つと、乳製品の前を素通りして、インスタントラーメンを一袋買って帰りました。

(川上敬太郎)

川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)
川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家
男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌「月刊人材ビジネス」営業推進部部長兼編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関「しゅふJOB総合研究所」所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。
雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する「働く主婦・主夫層」の声延べ4万人以上を調査・分析したレポートは200本を超える。
NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」などメディアへの出演、寄稿、コメント多数。
現在は、「人材サービスの公益的発展を考える会」主宰、「ヒトラボ」編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。
1973年生まれ。三重県出身。
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