街頭で見知らぬ人と名刺交換させる会社
そんなことを考えていたら、ふと東奔西走していたサラリーマン時代に遭遇した光景を思い出しました。仕事中、都内の駅前を歩いていたところ、突然目の前に現れたのは、微笑みをたたえた20代前半とおぼしき女性。
「よろしかったら、名刺交換していただけませんでしょうか?」
理由を尋ねると新入社員とのことで、
「会社の研修で、お会いした方のお名刺を頂だいしております!」
と明るく笑顔で答えてくれました。
確かに、見ず知らずの人に名刺交換を頼むというのは、度胸をつける訓練になりそうです。また中には自身が新人だったころを思い出して、「大変だね」などと声をかけながら名刺を渡してくれる優しい先輩社会人もいるのかもしれません。
そんな度胸試しと引き換えに獲得した接点が、新たな取引につながるようなことになれば、会社にとっては営業活動にもなって一石二鳥です。
しかし、忙しいなか見ず知らずの会社の「社員研修」に巻き込まれて時間を費やし、名刺まで要求される側は迷惑です。周りを見ると、他にもあちこちで名刺交換をお願いして回る人の姿が......。「当社はこんな研修を社員に課しているブラック企業なんです!」と、明るい笑顔で自社の「悪評」を次々に宣伝しているように見えて、とても不気味でした。
そんなことを思い出しながらスーパーで買い物をしていたら、目に入ってきたのはいつぞや「お昼時」に訪問販売を受けた乳製品。見た瞬間によみがえったのは、その時の不快な感情と伸びてしまったラーメンの悲しい記憶。
「よし、あの時のラーメン、今度こそのびる前にアツアツのまんま食べきろう」
そう思い立つと、乳製品の前を素通りして、インスタントラーメンを一袋買って帰りました。
(川上敬太郎)