「明るく・楽しく・オシャレな自動車教習所」、「教習所らしくない教習所」を目指して1986年に初めて女性インストラクターを登用し、その後も女性の積極採用・登用に力を入れてきたコヤマドライビングスクール。「長年の取り組みによって、制度は拡充されてきているものの、女性側の意識はまだ道半ば」。そう話すのは、同社の女性活躍推進委員会のオブザーバーを務めてきたコヤマドライビングスクール取締役副社長の長井和子(ながい・かずこ)さんだ。
業界の内外で「進んでいる」といわれる同社の取り組みについて聞いた。
国の法令基準の一歩先を行く女性社員の支援
―― 自動車教習所というと、男性インストラクターが多いイメージがありますが、コヤマドライビングスクールは女性インストラクターも多く、女性活躍の取り組みが進んでいると聞きました。そうした女性活躍の取り組みはどのように進んできたのでしょうか。
長井和子さん「東京と神奈川に5つのドライビングスクールを運営していますが、2021年6月末現在、インストラクターの数は合わせて499人、そのうち女性の数が149人で、3分の1弱となっています。
女性インストラクター第1号が生まれたのは、1986年のことです。その1年前に、CI(コーポレートアイデンティティー)を導入して、それまでの教習所の「クライ、コワイ、ダサイ」というイメージと真逆の、「明るく・楽しく・オシャレな」教習所を目指そうと舵を切ったタイミングでした。「教習所らしくない教習所」を合言葉にまず取り組んだのが、男性社会だった教習所に女性のインストラクターを誕生させることでした。
初の女性インストラクターが誕生したものの、最初は従業員用の女性のトイレも更衣室もありませんでした。女性と一緒に働くという概念がなかったので、社員食堂で堂々と着替えていた男性もいたほど。 「ここは女性がくるところじゃない」と言われながら、その女性ががんばって続けてくれて、その後、女性が5~6人に増えたころから、女性社員用の施設も本格的に整備されはじめました。周りの男性の意識が徐々に変わってくるにつれて、社内の雰囲気が明るくなり、若い学生さんだけでなく、全体的にお客様も集まりだしたのはうれしい効果でしたね」
―― 働く女性への支援施策は、国が定める法令基準より進んでいるそうですね。具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。
長井さん「自動車教習所は朝早くから夜遅くまで授業があり、土日祝日も開校しているので、インストラクターはシフト制で働いています。子育て支援としては、育児短時間(時短)勤務制度があり、子供が小学校6年生までほぼ無条件で(小学3年生以上は配偶者が扶養でない場合)使えます。でも、フルタイムで働きたい人もいますよね。その場合、遅番シフトの免除や、平日の休みを日曜・祝日に振り替えるという制度もあります。それから、子供の面談などで少し勤務を抜けたいときに使える養育外出制度は、一旦出社して中抜けするだけではなく、家から直接外出したり早めに直帰することもできる利便性の高い内容となっています。時短勤務制度は、制定以降、複数回、内容が見直されて、その都度、就業規則が更新されてきました。利用する側にとって使いやすいようどんどん制度も変わってきて、国の基準よりはるかに進んでいるのも当社の特長です」
女性活躍推進委員会が「現場」の声を吸い上げ
―― 現場の声や利用する側の視点が細かく反映されていることがわかります。そういった現場の意見や提案はどのように吸い上げられているのでしょうか。
長井さん「社内には、マナー向上委員会や広報企画委員会など20ほどの委員会やプロジェクトがありますが、その中の「女性活躍推進委員会」が、女性が働きやすい職場づくりを担っています。全5校から女性が1~2人ずつ委員として選出され、私はオブザーバーという立場でサポートしています。これまで導入された各種施策は、この女性活躍推進委員会メンバーが経営戦略会議(役員会議)でのプレゼンをして採用されたものがほとんどです。
そもそもこの組織は、2006年の全社合同忘年会の席で、女性社員が先代の社長に直訴して『子育て環境向上プロジェクト』が発足したのが始まりです。その後、「子育てしている女性ばかりじゃない」、ということで、『女性キャリアアッププロジェクト』と名前を変え、さらに「キャリアアップしたい女性だけじゃないよね」ということで現在の名前になりました。その過程の中で「プロジェクト」から「委員会」へと昇格しています。始まったきっかけも運営もボトムアップの組織だからこそ、社員や当事者に寄り添った制度が実現できているのではないでしょうか」
―― 不妊治療のサポート制度もあるそうですね。
長井さん「はい。2013年には、子づくり支援、すなわち不妊治療をサポートするための制度も導入しました。通院が必要なだけでなく、安静にしなくてはいけない時期があるなどといった個々の要望をシフトに考慮できるという制度です。こうした子供が生まれる前の制度から、産休・育休など生まれた後のさまざまな制度を委員会メンバーが手分けして冊子にまとめた『ABC BOOK(Amenity of Business & Child care Book)』を作成、社員に配布しています。制度だけではなく、利用する場合に必要な提出物などもカバーしており、これ1冊で出産や育児に関する制度が網羅され、とても分かりやすいと社員からも好評です」
―― 今後の課題はなんでしょうか。
長井さん「よく『これからどのような女性向けの施策を予定していますか?』と聞かれますが、『わかりません』と答えています(笑)。というのも、委員会のメンバーが考えた内容によって今後の施策が決まるので、フタを開けてみないと私にはわからないのです。
でも、ひとつ大きな課題として常にあるのは、女性の管理職を増やすということ。ここ数年で結婚や出産を機に辞めた女性社員はおらず、子育て支援策は功を奏していると思います。しかし、女性の管理職はいまだ少ない状態です。理由としては、勤続年数が長い女性がまだ少ないのと、当の女性が管理職になりたがらないからです。
「部下が残業しているのに(上司の)自分だけ早く帰るのは無責任なのでは」という理由で二の足を踏む人もいるのです。他にも女性が活躍するためには、まず女性自身の意識が変わらなければいけないことがたくさんあることを痛感しています。
今年3月に世界経済フォーラムが公表した『ジェンダー・ギャップ指数2021』では、日本が156か国中120位と最低レベルで、前回からも横ばいだったそうです。日本のジェンダーの平等がなかなか進まないことに、私自身、とても危機感を感じています。社会や育った環境によって女性自身が刷り込まれた考え方を変えることはとても難しいことですが、だからこそ女性の意識改革にねばり強く取り組んでいかなければと思っています」
(聞き手:戸川明美)
プロフィール
株式会社コヤマドライビングスクール取締役副社長
主婦からフリーランスコピーライターを経て、38歳で広告会社を設立。同年東京コピーライターズクラブ準新人賞、40歳で同新人賞を受賞。1989年女性の自立を応援するビジネススクール「アイムパーソナルカレッジ」を開校し、ライター、カウンセラーを輩出。その後飲食業界にも進出し『フォーブス日本版』で日本の女性企業家50人に選出された。 1985年からコヤマドライビングスクールに携わり、2010年9月から現職。