なぜ、社内の「エライ人」にフルネームを尋ねると怒られてしまうのか?【vol.2】(川上敬太郎)

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   会社に名字しか名乗らない人から電話がかかってきたら、所属する企業名やフルネームを確認しなければならないのは、なぜでしょうか?

   それは、世の中に同姓の人がたくさんいるからです。

   漫画の主人公でしか見たことがない「竈門(かまど)さん」のようにレアな名字の方であっても、日本中にたった一人ということは、まずないはずです。

  •  「田中さん」「鈴木さん」「佐藤さん」……。同性の人はたくさんいる(写真はイメージ)
     「田中さん」「鈴木さん」「佐藤さん」……。同性の人はたくさんいる(写真はイメージ)
  •  「田中さん」「鈴木さん」「佐藤さん」……。同性の人はたくさんいる(写真はイメージ)

あなたは「鈴木です。佐藤いる?」で電話を取り次ぎますか?

   「もしもし、「田中です」 と、電話がかかってきたら、

「失礼ですが、どちらの田中様でいらっしゃいますか?」
「申し訳ございませんが、フルネームをお教えいただけますか?」

などと尋ねて、何万人もいる「田中さん」の中から絞り込みます。

   その後のやり取りをスムーズに進めるためにも、どの「田中さん」なのかをハッキリさせておかなければなりません。

   しかし、会社の中で電話対応していると、時にそんな目論見が全否定されてしまうような出来事に遭遇することがあります。たとえば、以下のようなケースです。

「鈴木です。佐藤いる?」

と、電話がかかってきたので、

「失礼ですが、どちらの鈴木様でいらっしゃいますか?」

と尋ねると、

「はあ?鈴木って言えばわかるよ。佐藤は?」
「かしこまりました。では、鈴木さま、フルネームをお教えいただけますか?」
「急いでるのに、何言ってんの!すぐ佐藤につないでよ!」
怒ってる? とりつく島なく......
怒ってる? とりつく島なく......

と、とりつく島もない横柄な態度......。

   事務所にいる「佐藤さん」はたまたま所長だけだけど、世の中に「佐藤さん」は何万人もいるんですよ? フルネームも教えてくれないし、うちの所長を呼び捨てにするし、なんてケシカラン人だ、まったく! ......と半ばキレぎみに佐藤所長につないでみると、

「わ、バカ! フルネーム聞こうとしたの? それ、うちの鈴木専務だよ!」

   まだ入社して日が浅いのに、専務の名前まで覚えてませんよ、などと言い訳することもできず、所長からお叱りを受けてしまうことに。名字しか名乗らない人から電話があったら、フルネームを聞けと指示したのは所長じゃないですか......。

   そんなやりとりをした経験、ありませんか? 私は、あります。

「お父さんやけど......」 なんでわかった?

   確かに、会社のエライ人ともなると、いちいち所属を名乗ったり、フルネームを伝えるのはまどろっこしいというのもわからないではありません。しかし、同姓で似た声の人だったらどうするんですか? あるいは、鈴木専務の名を騙る新手の詐欺師(どんな詐欺かはわかりませんけど)だったらどうするんですか??

   電話を受けた者としては、一応そんな言い分もあるわけです。

「電話がかかってきたらフルネームを確認しなさい。でも、それが社内のエライ人の場合はフルネームを確認してはいけません。うまく察して対処しなさい」

ということですね。でも、そういうのをダブルスタンダードというのではありませんか。

   などと独りごちながら、買い物しようとスーパーに向かって歩いていると、急に雨の気配が漂ってきました。ヤバい、洗濯物を中に入れなければ! と家に電話をかけると、大学浪人中の長男が出てくれました。

「お父さんやけど、洗濯物を家の中に入れといてくれる?」
「うん、わかった」

   これで洗濯物が濡れずに済むとホッとした直後、あれ? と思いました。長男はなぜ私がホンモノの父だとわかったのだろう? きっと、電話の声や話の内容から、「ホンモノ」だと察したのでしょう。

   もしも、

「お父さんやけど、洗濯物を家の中に入れといてくれる?」
「ホンモノのお父さん? 失礼ですが、フルネームをお教えいただけますか?」

なんてやりとりがあったとしたら、

「急いでんのに、何言うてんの! すぐ洗濯物入れてんか!」

と、思わず言ってしまいそうです。

   特殊詐欺(オレオレ詐欺)被害が後を絶たない昨今、身内同士でも相手が「ホンモノ」なのか確認は必要かもしれません。しかし、会社だろうが家庭だろうが、確認するのがまどろっこしいのも事実。

   となるとやはり、会社では杓子定規な対応よりも、ほどほどに忖度して対応することが大切ということになりそうです。

   かかってきた電話が社内のエライ人からなら、フルネームなど確認せずとっとと取り次ぐ。そんな察しの良さが求められるのです。たとえそれが、ダブルスタンダードになったとしても。

   買い物を終えたスーパーからの帰り道。小雨の中、小走りしながら、独りごちました。

「そうやって会社の『エライ人』への忖度がうまい人って、出世も上手だよな。」

(川上敬太郎)

川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)
川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家
男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌「月刊人材ビジネス」営業推進部部長兼編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関「しゅふJOB総合研究所」所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。
雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する「働く主婦・主夫層」の声延べ4万人以上を調査・分析したレポートは200本を超える。
NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」などメディアへの出演、寄稿、コメント多数。
現在は、「人材サービスの公益的発展を考える会」主宰、「ヒトラボ」編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。
1973年生まれ。三重県出身。
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