復職しやすいように「ハンドブック」を作成
――「キャリアと育児の両立支援のハンドブック」という冊子があるそうですが、どのようなものですか。
金丸さん「これは当社(シミック株式会社)が作成しました。女性も外勤が多い仕事(臨床開発モニター、CRA)なので、妊娠や出産、育児休業後に復帰する際、本人に不安があり、上司もどのように対応すればいいのかわからないという問題がありました。育児休業後は、ほぼ全員が復職するのですが、休職前のような勤務形態では働けない状況の社員が多いのも現実です。復職後の心構えを休職中に理解してもらいたい。復職後に思っていたのと違った、となるのは本人、上司双方にとって良くないという社員の発案をもとに2019年に人事部で作成しました。『育児休業者向けキャリアと育児の両立支援のハンドブック』と上司用の『管理職向けマニュアル』があり、社員対象のポータルサイトで見ることもできます」
今村摩耶さん「私は、このハンドブックを使って、産休に入る社員に対して面談しています。復職に向けて、自分自身がどのように働いていきたいのかを真剣に考えることが大切です。そのために何を家庭内で調整しなければならないのか、使えるサービスにはどのようなものがあるのか、などを自分で調べ、環境を整えてから復職するようにと伝えています。ハンドブックは順をおって書かれていますのでので、特に初めての復職でイメージがつかないことが多い人に役立つと思います。私は上司として面談しているわけではありませんので、社員の要望を聞いたうえでアドバイスしています」
――実際に会社の中でご自身が女性活躍やダイバーシティを実感したことはありますか。
金丸さん「私がこの会社に入社したとき、幼い子どもが3人おり、下の子どもはまだ1歳でした。今ほど制度は充実していませんでしたが、それでも採用されたことには驚きました。当時は定時勤務で残業はできませんでしたが、仕事の時間ではなく、内容を評価する風土はすでにありました」
野田さん「私が育児休業後に復職した当時、上司は『何が大変かわからないこともあるので、はっきり言ってほしい』と言ってくれました。それを若い社員が見ていて自身の出産後、育児をしながら働くはどうしたらいいのか、仕事の進め方や上司とのコミュニケーション方法などを吸収していったと感じています。また、時間に制約がある中でも自分の仕事を調整してやりたいことを表明することの大切さも見てくれていたと思います。急に会社が変化したのではなく、もともとあった考えと積み重ねてきた行動が女性活躍の結果につながっていると思います」
――ダイバーシティについて、今後、どんなことに取り組んでいきますか。
金丸さん「男性の育児休業の取得率を上げていきたいと考えています。ここ数年、取得率は上がってきているのですが、社会全体として、男性も子育てにより積極的に参加するべきと考えています。シミックからもそのきっかけを作りたいと思い、一部を有休化するなど工夫しています。今後も推進していく予定です」
今村さん「最近、育児休業を取得する男性社員が増えています。育児休業後に感想を聞いたところ、『育児休暇中の1か月は戦いだった。この後、継続していくためには、どう自分の時間を使っていくのかが課題だと痛感した』という男性が多く、男性も育児休業を体験することで時間の使い方、仕事の工夫が身につく機会になっていると思います」
(聞き手:水野 矩美加)
プロフィール
金丸 恭子(かなまる・きょうこ)
シミックホールディングス株式会社 グループダイバシティ推進担当
シミック株式会社 経営管理本部長
大学卒業後、外資系製薬会社にて勤務、出産を機に退職。2002年シミックに入社し、臨床試験の品質管理業務に従事、2016年10月からダイバーシティ&インクルージョン推進担当。現職。
野田 早紀(のだ・さき)
シミック株式会社 経営管理本部 人事部HRグループ 労務チーム・チームリーダー
2007年臨床開発部に入社。臨床開発モニターとして従事。2010年産前産後休暇・育児休業取得。11年に復帰し、モニター職への復職も果たす。16年人事部へ異動。17年に二度目の産休・育休を取得し、翌年復帰。「キャリアと育児の両立支援ハンドブック」作成も担当。2020年より現職。
今村 摩耶(いまむら・まや)
シミック株式会社 臨床事業第三本部 Clinical Leader
2007年に中途採用で入社し、臨床開発部にて治験のモニタリング業務に従事。16年から産前産後休暇・育児休業取得。18年に短時間勤務制度を利用して復帰し、現職。
2020年より、部門の産休/育休者対応を実施。