「自分の一日は自分でデザイン」する働き方で成果につなげる ファイザー 相原修さんと岡田絢美さんに聞く

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   目下、新型コロナウイルスのワクチン開発で大きな注目が集まっている製薬大手のファイザー株式会社。じつは女性活躍を積極的に推進している企業としても注目されている。

「今年2月末から、ほぼ完全なリモート勤務が続いているなか、働き方も確実に変化している」

   そう話す、同社取締役執行役員 人事・総務部門長の相原修(あいはら・おさむ)さん。同部門HRビジネスパートナーであり、全社的なダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を担当する岡田絢美(おかだ・あやみ)さんに、女性活躍推進の取り組みを聞いた。

  • ファイザーは役員の4割超が女性で占めている(写真は、取締役執行役員 人事・総務部門長の相原修さん)
    ファイザーは役員の4割超が女性で占めている(写真は、取締役執行役員 人事・総務部門長の相原修さん)
  • ファイザーは役員の4割超が女性で占めている(写真は、取締役執行役員 人事・総務部門長の相原修さん)

男性の育児休暇はじつに約8割が取得

――ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の取り組みの中で、特に女性の管理職比率の高さが評価されているとうかがいました。現状はいかがでしょうか。

相原修さん「2020年4月時点で、役員17人中に占める女性の割合が7人と4割を超え、課長以上の女性の比率で見ると19%となっています。課長、部長、役員と役職が上がるほど、女性の比率が高いのが特徴です。とはいえ、会社全体の女性の割合は3割弱とまだ少ないのが現状で、今後は裾野をもっと広げていきたいと考えています」

――女性活躍の促進に向けて、これまでどのように取り組んでこられたのでしょうか。

相原さん「制度面とそれ以外の取り組みがありますが、制度面については、サポートを手厚くすることに取り組んできました。たとえば、育児休業制度では、法定では原則1歳まで、お子さんが保育園に入れない場合など2歳まで延長できますが、弊社では現状、特に条件なく1歳6か月まで(保育園に入れない場合は2歳まで)としており、今後条件を付けずに2歳まで引き上げることを検討中です。また、育児休暇中は無給としている企業が多いのですが、それを2週間まで有給にしています。こうした制度の後押しもあり、男性の育児休暇の取得率も今年9月時点で約80%と、かなり高い割合で取得できていますね。その他にも、子どもの看護休暇、時短勤務など、さまざまな制度での拡充を図っています」

――制度面だけでなく、企業文化という面でも風通しの良さそうなイメージがありますね。

相原さん「じつは、かなり早い1974年からフレックスタイム制度を運用し、社員のフレキシブルな働き方をサポートしています。コアタイム(必ず勤務しなくてはいけない時間)がないという点が特徴で、ある日は1~2時間だけ、別の日に10時間働くこともできます。
いま、社内では『自分の一日は自分でデザインしよう』というメッセージを発信していますが、これには、社員がいつ、どこで、どんな服装で働くかは自律的に自分で判断してくださいという意味を込めています。つまり、最もイキイキと働けて、成果がでる働き方を自分で決めるということです。制度はあってもなかなか利用がされない企業もあるとも聞きますが、まずは社員の意識や行動を変えることが大切だと思っています」

コロナ禍の働き方は「ワークアットホーム」で!

――コロナ禍の環境で、リモートワークでの業務が進んでいると思います。

相原さん「コロナの影響が出始めた今年2月末から原則として在宅勤務になり、本社社員を中心に、今も多くの社員がリモートで働いています。弊社ではリモートワークの『ワークアットホーム』制度を2009年に導入し、より利用しやすい制度への変更や利用促進の働きかけなどにより、利用が増えていきました。そして、このコロナ禍で社員の意識もさらに進み『ワークアットホーム』がスタンダートになりつつあります。ポストコロナを見据えて、より利用しやすいものにするため、自宅や実家に限っていた場所の制限をなくすなど、さらなる、制度の整備も図っています」

――女性活躍の促進について、制度面以外にはどのような取り組みを進めているのでしょうか。

岡田絢美さん 「2009年にJapan Women's Council(JWC)という組織を立ち上げたことが、弊社における本格的な女性活躍推進のスタートです。JWCは、グローバルの取り組みの一環として、男性女性のシニアマネジャーが、女性の活躍推進について議論を行い、各種施策をリードする組織です。同時に、施策の対象となる若手女性社員によるネットワークグループJWCRG(Japan Women's Colleague Resource Group)が組成され、2年に一度、約30人のメンバーが各部門から選出されて、イベントや研修などを展開してきました。
かつてJWCRGのメンバーで、これまでに課長や部長クラスに昇進した社員が何人もいます。当時の話を聞くと、マネジャーになる手前で『自分が管理職になれるのだろうか』と悩んでいた時に、上部組織のJWCの女性シニアメンバーに後押ししてもらって一歩前に踏み出せたそうです。こうしたロールモデルやメンター的な存在のサポートは大きな推進力となってきました。地道な取り組みではありますが、こうして10年という長いスパンで見ると成果が現れていると感じます」

「なぜD&Iを推進するのか」を理解する

人事・総務部門HRビジネスパートナーでD&I担当の岡田絢美さん
人事・総務部門HRビジネスパートナーでD&I担当の岡田絢美さん

――女性活躍推進やD&Iの課題や今後の展望などを教えてください。

相原さん「次世代のリーダーの育成という意味でも、全体の女性の数をいかに増やしていくかが今後の最大の課題といえるでしょう。さらに、MR(医薬情報担当者)と呼ばれる営業職や名古屋工場などでは、女性社員の数も、女性管理職の比率も相対的に低い状況にあり、それぞれに特化した取り組みが必要です。今後は、必要な場所に、よりきめ細やかな支援や独自の施策を進めていきたいと思います。
女性活躍で忘れてはいけないのは、『なぜD&Iを推進するのか』という視点です。すなわち、性別という視点だけではなく、さまざまなバックグラウンドをもった多様な社員が集まり(Diversity)、その多様な社員がそれぞれの個性や能力、才能を発揮できる環境、風土を作る(Inclusion)。それによってイノベーションやブレークスルーが生まれ、人も会社も成長し成功できるということです。こうした視点に常に立ち戻って、女性だけでなく、LGBTQやシニア層、障がい者などすべての人が能力を十分に発揮できる職場づくりを展開していきたいと思っています」
岡田さん「女性活躍推進は非常に重要なテーマの一つですが、これだけにとらわれるとD&I担当者としての視野が狭くなりがちです。そんな時、上司の相原やD&Iを推進する担当役員、各国でD&Iを推進する同僚と議論したり、草の根活動でD&Iを推進する有志の仲間と協働したりするなど、さまざまな関わりを積極的に持ちながら、新たな気づきと刺激を得るよう努めています。オープンに話し合いができ、自分の考えを安心して表現できる場がある。私自身はまさにインクルーシブな環境で働けていると感じています。
ただ、そのような環境を創るには、正しい知識を身につけることが必要不可欠です。知識が十分でないために無意識に行う言動が、時として相手を傷つける可能性もあるからです。そこで、さまざまな立場の方の話を直接聞く場を数多く設け、社員一人ひとりが主体的に考える機会を提供しています。たとえば先日、ある著名なゲストをお招きして、人種について考える研修をリモートで開催したところ、予想を大きく超える非常に多くの社員が参加しました。今まで知らなかったことを『知る』、そして『気づく』ことができる機会を模索しながら、すべての社員が自分の強みを活かして活躍できる職場環境づくりを進めていきたいと思います」

(聞き手:戸川明美)


プロフィール

相原 修(あいはら・おさむ)
ファイザー株式会社
取締役執行役員 人事・総務部門長
大学卒業後、東レ入社。アメリカ駐在を含め一貫して人事マネジメントに携わり、GE、DHL、ベーリンガーインゲルハイムの人事リーダーポジションを経て、2018年9月より現職。
リーダーシップ開発、エンゲージメントの向上、企業風土の変革、M&Aとインテグレーション、働き方改革、D&Iなど多くの変革イニシアティブに取り組んできた。

岡田 絢美(おかだ・あやみ)
ファイザー株式会社
人事・総務部門 人事ビジネスパートナー/EF 人材&組織開発 Culture D&I担当
大学卒業後、三菱信託銀行株式会社(当時)へ入社。ボストン コンサルティング グループで人事(採用、社内人事)のキャリアをスタートし、LIXILにおいて人事および広報にて次世代人材育成、グローバル人事、エンゲージメント向上、企業理念の浸透、働き方改革などのさまざまなプロジェクトに従事。2019年4月より現職。2児の母。

水野 矩美加(みずの・くみか)
水野 矩美加(みずの・くみか)
アパレル、コンサルタント会社を経てキャリアデザインをはじめとする人材教育に携わる。多くの研修を行う中で働き方、外見演出、話し方などの自己表現方法がコミュニケーションに与える影響に関心を持ち探求。2017年から、ライター活動もスタート。個人のキャリア、女性活躍、ダイバーシティに関わる内容をテーマに扱っている。
戸川 明美(とがわ・あけみ)
戸川 明美(とがわ・あけみ)
10数年の金融機関OLの経験を経て、2015年からフリーライター、翻訳業をスタート。企業への取材&ライティングを多く行う中で、女性活躍やダイバーシティの推進、働き方の取り組みに興味をもつ。
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