政府は2020年12月14日、年末年始の「GoToトラベル」キャンペーンの一時停止を発表しました。10月ごろの話ですが、「やっと営業活動が日常にもどってきました」という会話を複数の社長から聞いて、「これから経済が戻る」と思って期待していましたが、中小企業の経営者にとっては、先行き不透明な状況は変わらずです。
さて、そんな先行き不透明な時でも厚生労働省管轄で一定の手続きを行うことで得られるのが「助成金」。雇用調整助成金も2021年2月まで延長され、駆け込み申請シーズンに突入しました。
助成金は種類も多く、面倒なので敬遠する経営者も多いのですが、専門家を活用して一度に、短期間に手続きができればその効果は大きく、いざとなったときの備えになります。
助成金の申請率は約2割!?
コロナ禍前のデータにはなりますが、ビジネスチャットを提供する「chatwork」社が行った2020年1月発表の調査では、助成金の認知度は9割、申請率2割という発表がありました。
参考リンク:「助成金に関するアンケート」(2019年12月)chatwork社
調査結果をみると、
・もう少し素人でもわかりやすいように
・もう少しわかりやすい告知や情報の可視化をして欲しい
・より多くの企業に行き渡るようにして欲しい
・記載書類の説明をもっとしてほしい
といった声があがっていました。
これには、まったく同感です。非常に助成金の種類や条件項目が多く、内容を理解するだけでもひと苦労です。平常時であれば、助成金に手間をかけるくらいないら、本業に時間を使って稼いだほうがマシ、という経営者は多いと思います。
しかし、「GoToトラベル」の一次停止など、景気の不透明感がある今は、そんなことは言っていられません。今一度、長期戦も視野に、助成金について年末年始に情報を洗っておくというのも経営者に求められる態度かもしれません。
どんな助成金があるのか?
厚生労働省の公開情報をみると、たくさんの助成金が今も公開されています。厚労省サイトから、いくつかピックアップしてみました。
・休業や教育訓練、出向を通じて労働者の雇用を維持した場合に支給される
・離職を余儀なくされる労働者を民間職業紹介事業者に委託した場合に支給される
・離職を余儀なくされた労働者を早期に雇い入れた場合に支給される
・中途採用者の雇用管理制度を整備したうえで中途採用を拡大した場合に支給される
・起業により中高年齢者などを雇い入れた場合に支給される
・評価・処遇制度や研修制度等の雇用管理制度を導入・実施した場合に支給される
・設備導入により、賃金アップなどと生産性の向上を図った場合に支給される
・有期契約労働者等を正規雇用などへ転換または直接雇用した場合に支給される
・若年者に対する訓練、労働生産性の向上に資する訓練を行った場合に支給される
・有期契約者の賃金規定等の増額改定により賃金の引上げを実施した場合に支給される
これらは、ごく一部にすぎませんし、受給要件に該当するかの確認が必要です。ただ、来年(2021年)、再来年(22年)を考えると、いくつか該当しそうだ......。という場合には、要チェックになります。
条件に当てはまる場合には、数百万円単位で、受給できる可能性もあるのです。助成金について、自力で内容確認して申請するというのは、その種類と内容からみて、現実的ではありません。受給条件に合致しているかは専門家の無料診断などで見落としがないか、見ておきたい情報です。
参考リンク:「テレワークソリューションバンク」助成金無料診断
専門家に任せると申請の数を増やせる
たとえば、雇用シェア(厚労省の説明の中では、在籍型出向制度)を行うことで、雇用調整助成金の対象になる制度もあります。これは、経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図ることを目的に行う出向です。
「インバウンドの外国人観光客の減少により、観光バス運転手の雇用維持に苦慮している」(観光バス)
「感染症の影響などにより、稼働率が大幅に低下したため、4月入社の新入社員を自宅待機させていたが、社員教育を兼ねて出向を活用したい」(旅館・ホテル業)
などは、その出向のケースです。
仕組みとしては、産業雇用安定センターがこうした送り出しと受け入れの双方ニーズをマッチングするという仕組みです。こうした本人意向も関わる仕事については、拙速に進められないこともあり、まだ会社の体力があるうちに、下調べしておきたい助成金制度といえます。
とはいえ、ほとんどの経営者はなんらかの助成金の資料に目を通したことはあるのではないでしょうか。
「たしかに、仕組みも手続きもわかったけど、煩雑な割には、もらえる時期がかなり先だし、少額だ」
そうこぼす経営者もいますし、
「(専門家に依頼しなくても)書類なら自分で書けるしなぁ」
そんな経営者も、きっと多いことでしょう。
たしかに、助成金の申請は自分でできるのですが、専門家に任せる効果が大きいのは、「申請の数を増やせる」ということかもしれません。
助成金の申請には、賃金台帳や雇用契約書など、雇用関連書類の準備が伴いますが、それらの資料をそろえて、複数の該当助成金に提出することで、受給額や組織整備が進むという側面もあります。
売り上げが上がっても、下がっても、商品開発に店舗の見直し、新規の営業などとやることがいっぱいで忙しいのが中小企業経営者です。
「難局への備えはする。本業は自分たちでやる。だから、それ以外は任せる!」
この先不透明な今、こうした判断が1年後の結果を分けることになるかもしれません。(高井信洋)