国内外合わせて700社を超えるグループ会社をもつ日立グループ。その中核に位置付けられる日立製作所は近年、グループを含めたダイバーシティや女性活躍の取り組みを強く進めてきた。
この取り組みを統括する日立製作所人財統括本部 ダイバーシティ推進センタの部長代理、相馬知子さんと同センタ担当者の小島佳奈さんに話を聞いた。
女性活躍推進からダイバーシティへ
――日立製作所では、女性活躍を含むダイバーシティ推進として掲げていた「女性管理職の数を800人にする」という目標を、今年(2020年)10月達成したそうですね。
相馬知子さん「はい。当社は2017年度に、『2020年度末までに、日立製作所単体で女性管理職の数を800人に増やすこと』と『役員における女性と外国人の比率をそれぞれ10%にすること』という目標を設定しました。800人というのは、2012年度の女性管理職の数の2倍ですが、今年10月に、半年前倒しでこの目標を達成することができました。女性役員については、2015年に初の女性役員が誕生。今年4月時点で5人と、全体に占める比率は7.1%(外国人役員比率は8.6%)となりました。引き続き目標の10%に向けて取り組んでいます」
――国内メーカーというと、男性中心で、長時間働くイメージがありますが、これまでどのように女性活躍推進に取り組まれてきたのでしょうか。
相馬さん「確かにかつては、主に日本国内のお客様に商品やシステムを提供するために、新卒採用で入社した日本人男性を中心とした同質な集団で仕事がされていました。しかし現在の日立グループは、国内外合わせて数百のグループ会社を抱え、社会イノベーション事業をグローバルに展開しています。社会が抱える課題が多様化・複雑化する中で、これまでの同質なやり方や考え方では立ち行かなくなります。国籍や性別を問わず、多様で主体的に動ける人財が事業上でも必要になってきています。
日立グループの女性活躍やダイバーシティ推進は、2000年ごろから大きく3つのフェーズで取り組まれてきました。第1フェーズは、女性が仕事と家庭の両立ができるよう支援する女性活躍支援が中心でした。2006年からの第2フェーズでは、女性にかぎらず多様な人財の活用を推進する『ダイバーシティ』を前面に出し、男性も含めたワークライフバランスの推進やジャンダーにとらわれない施策を打ち出し始めます。主要グループ会社で、ダイバーシティ担当を設けて協議会を作るなど、ヨコの連携を始めたのもこの時期ですね。2012年頃から始まった第3フェーズでは、ダイバーシティを重要な経営戦略として捉え、トップのコミットメントを強化してきました」
小島佳奈さん「ダイバーシティにフェーズが移った後も、女性活躍支援や仕事と家庭の両立支援については、拡充を図ってきました。働くママやパパ向けに両立支援セミナーの実施や、保育所の設置、保育園への入園のサポートなども用意しているほか、多様な部下をもつ管理職向けのマネジメント研修なども実施しています」
外国人社員比率5割超え 女性活躍、ジェンダー課題さまざま
――女性リーダーの育成や開発のために、具体的にはどのような施策を行っていますか。
小島さん「国内で言えば、グループの若手女性向けにキャリアセミナーを実施しています。入社3年目の女性総合職が対象で、キャリアに関する講義や先輩社員によるパネルディスカッションなどを行っています。
入社して数年が経ち、将来について考え始める人も増えてきますので、キャリア形成、仕事とライフイベントとの両立について考える良い機会になっていると思います。勤務先に同年代やロールモデルとなる先輩社員がいないケースもあり、女性同士のネットワーキングの場としても活用されていますね。一方、若手層は女性の人数も増えてきましたので、性別を限定せずに同様のキャリアセミナーを実施する事業所もあります。 海外のグループ会社を含む主な取り組みとしては、2016年度から『Global Women's Summit』=写真を参照=を実施しています。日立製作所の東原(敏昭)社長をはじめとする幹部からのメッセージ、日立グループ内のリーダーが登壇するパネルディスカッション、キャリアやリーダーシップをテーマとしたワークショップなどを通じて、ジェンダーダイバーシティに関する啓発を図っています。
2013年度にイギリスで始まった取り組みをグローバルに拡大したもので、2019年度は初の日本開催となり、180人ほどが参加しました。会議はすべて英語で行われ、昨年からは男性も参加してもらうようにしたのですが、まだ数は少ないので、男性にとってはマイノリティを感じることができる場にもなっているようです。今年は新型コロナウイルスの影響で従来と同じ形での開催はできませんでしたが、来年以降もこの取り組みは続けていきたいと考えており、開催方法を検討しています」
――多くのグループ会社を抱える日立グループですが、海外を含む女性活躍推進やダイバーシティ推進の取り組みの現状はどうなっていますか。
相馬さん「日立グループでは、2018年度末から、グループ各社に女性管理職に関する目標値を設定してもらうようになりました。この取り組みに参加している会社は500社強あります。日本ではやはりまだ女性管理職の少なさが一番の課題ですが、地域によってはジェンダー以外の課題を挙げる会社もあり、国や地域の状況、ビジネス特性にそった指標を策定してもらっています。女性の比率だけを取り上げることが、逆差別となると考える国もありますので、共通した指標を作ることは難しいですね。多くの事業体が、達成期限を2~3年と置いているので、今年か来年末には、達成度が現れはじめると思います」
――今後の女性活躍を含むダイバーシティ推進の取り組み、強化ポイントなどございましたら、教えてください。
相馬さん「2020年4月に、日立グループは新たな役職、チーフ・ダイバーシティ&インクルージョンオフィサーに、イタリアでカントリーマネージャーを務めていたロレーナ・デッラジョヴァンナが着任しました。このたび晴れて来日することとなり、グローバルでどのようにこの取り組みを強化し、事業に貢献していけるか話し合う予定です。こうした動きは、きたる第4フェーズにつながるものと捉えています。
具体的には、海外や日本の事業で、意思決定層に、女性はもちろん多様な国籍の人財や日立グループ以外の経験をもつ人財をどう取り込んでいけるのか、ビジネスと連携しながら施策を考えていくことになるでしょう。日立はM&Aを経て、今では外国人の社員比率が全体の5割を超えています。今後、ダイバーシティ&インクルージョン推進の強化はますます重要な課題となりますので、新たなリーダーが加わった今、この動きに弾みをつけていきたいと思います」
(聞き手:戸川明美)
プロフィール
相馬 知子(そうま・ともこ)
日立製作所 人財統括本部ダイバーシティ推進センタ部長代理
大学卒業後、日立製作所に入社。IT事業部門、工場、海外など、さまざまな部門で人事・人材育成関連の業務を経験。部門の人事担当として、ダイバーシティ推進の業務にも携わる。2020年4月から現職。
小島 佳奈(こじま・かな)
日立製作所 人財統括本部ダイバーシティ推進センタ員
大学卒業後、日立製作所入社。グループ会社などで人事業務全般を担当した後、2016年から現職。