お手本は「デンマーク」 決めつけや思い込みをもたずにまず話し合う! 日本IBM 杉田緑さんに聞く

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   女性活躍の推進で定評のある日本IBMで、2020年10月1日にダイバーシティー&インクルージョン 担当パートナーに杉田緑さんが就任した。

   新卒でITエンジニアとして入社した杉田さんは、この数年間でMBA(経営学修士)の取得、人事部への異動、ダイバーシティー&インクルージョン担当へと、大きな転身を果たした。「女性活躍推進は、ダイバーシティー&インクルージョンという大きな取り組みのひとつ」と話す杉田さんに、日本IBMのダイバーシティー&インクルージョンや女性活躍の取り組みについて、聞いた。

  • 「デンマークのような社会を作っていきたい」(写真は、日本IBMダイバーシティー&インクルージョン 担当パートナーの杉田緑さん)
    「デンマークのような社会を作っていきたい」(写真は、日本IBMダイバーシティー&インクルージョン 担当パートナーの杉田緑さん)
  • 「デンマークのような社会を作っていきたい」(写真は、日本IBMダイバーシティー&インクルージョン 担当パートナーの杉田緑さん)

サステナブルな社会で仕事を楽しんで学び続ける

   ―― 女性や障がい者、LGBTQの取り組みなどを推進しているダイバーシティー&インクルージョンの担当パートナーに就任されました。入社以来IT畑を歩んでこられて、こうした転身の背景には、どのようなことがあったのでしょうか」

   杉田緑さん「2008年のリーマン・ショック後に、チームの雰囲気が暗く感じた時期がありました。そんな時に、情熱をもって新しいテクノロジーを追求する素晴らしいリーダーと出会えたことが転機となりました。周りの同僚たちが明るくなっていく様子を目の当たりにして、『社内にこんなリーダーを増やして、会社を元気にしたい』と思ったんです。

   とはいえ、私は理系出身で、それまではソフトウエア関連のプロジェクトに携わっていたので、どの部門でそれが実現できるのかわかりませんでした。そこで、リーダーシップや経営、人事を学びたいと思い、ビジネススクールに行くことを決めたのです。

   留学先に選んだのは、デンマークのMBAプログラムです。デンマークは『世界一幸せな国』といわれていますが、どのように人々が暮らしているのか、実際に見てみたいということもありました。現地に半年留学して見えてきたのは、ジェンダーも平等で、サステナブルな社会の中で、友人たちとの時間を大切にしながら仕事を楽しんで学び続けている人々の姿です。『私もこういった社会を作っていきたい』と改めて思い、帰国してから、いろんな方のお話を聞いて、人事部に異動しました。人事部では新卒採用やマネージャー支援などに取り組み、このたびダイバーシティー&インクルージョン推進担当となりました」

   ―― 日本IBMは、女性活躍の推進で高く評価されています。どのような点が評価されたのでしょうか。

   杉田さん「とくに女性管理職の育成という点が評価されたと思います。2019年から女性管理職育成のためのプログラム『W50』を始めましたが、その背景には、能力がある女性でも、管理職を打診されると『なんだか大変そう』『私に務まるかな』などと二の足を踏んでしまうということがありました。実際に、過去5年間の女性管理職の割合は13%前後の横バイでした。プログラム『W50』は、そういった女性を応援して、背中を押す。また、エグゼクティブ層にも『女性のリーダー候補がここにいる』ということを伝えていくという点でとても効果がありました」

女性管理職の育成を応援して「背中を押す」施策

   ―― 女性活躍の推進について、具体的にはどのような関連施策がありますか。

   杉田さん「具体的には、エグゼクティブと1対1でペアを組み、エグゼクティブがオーナーシップをもって、その社員に向き合ってもらう『スポンサーシップ』や、一緒に実際のミーティングの場に参加するといった『擬似体験』といった、さまざまな取り組みを行ってきました。結果的に、この1年のプログラムを終えた半年後には、参加者54人中の約半数が部下をもつ管理職に着任しました。当初はプログラム終了から1年後に半数の管理職登用を想定していたのですが、実際にはより早くそれ以上の効果が現れて、うれしい発見でしたね。『管理職になりたくない』割合も40%から10%に低下し、当事者だけでなく、同僚や若手の女性社員にも良い影響になっていることがわかりました。こうした地道な取り組みは、これからも続けていきたいと思います」


「現場の声を大切にしている」と話す杉田さん

   ―― 社内保育園の設置や、教育休暇や介護休暇など、働きやすさを支えるさまざまな福利厚生制度があると聞いています。そういった制度を作る際の受け皿には、どのようなものがありますか。

   杉田さん「私たちは、現場の声というものを大切にしています。弊社には約20年前からJWC(Japan Women's Council)という委員会があり、課題をもつ社員自らが提言することができます。2011年の社内保育園の設置は、JWCから生まれ、最近では2019年に社内学童プログラムも実施されました。このプログラムは、夏休み中の2週間、子どもたちを預かり、IBMのテクノロジーに触れさせるなど、さまざまなプログラムを組んでいます。とても好評でしたが、今年(2020年)は新型コロナの影響で集まることができませんでした。代わりに、リモートで働く両親が少しでも仕事に集中できるように、オンラインで未就学児のダンスや読み聞かせなどのプログラムを行っています」

「コミュニティ」を超えて連携する

   ―― 女性活躍やダイバーシティー&インクルージョンを推進していくにあたって、今後の取り組みを教えてください。

   杉田さん「女性やマイノリティーが平等に活躍するためには、周りの人たちの理解やサポートの促進が必要だと思います。たとえば子どもがいる女性社員に対して、上司や同僚が『子どもがいるから、この仕事を任せないでおこう』と勝手に判断してしまうような、『アンコンシャス・バイアス』が起きることがあります。決めつけや思い込みをもたずに、まずは話し合いをしてどんなサポートが必要か理解することが大切です。そのためにも、管理者向けの研修などに力を入れていきたいですね。

   あとは、『枠を超えること』がカギになると思っています。社内には、ママやパパ、障がい者、技術者、営業など、さまざまなコミュニティがあって活動していますが、コミュニティを越えて連携していくことが、新たな突破口につながります。たとえば、介護と仕事の両立は、女性だけではなく男性も、職種によらず関わる問題ですよね。男女、技術者、営業職、障がい者などさまざまな立場の人が一緒になって考えていくような 『ヨコ』のつながりを生かすことが、新たなイノベーションにつながる可能性を秘めていて、IBMならではの解決策が生まれると思っています。

   じつは米国IBMのダイバーシティー&インクルージョン推進は100年以上にもわたって行われてきました。公民権運動が本格化する前から、黒人や女性の雇用を始めていますし、今から約80年前に初の女性副社長も誕生しています。こうした企業文化もあって、日本IBMも風通しが良い会社だと自負していますが、社会の変化とともに人々のニーズも変わっていくでしょう。これからも社員の声に耳を傾けながら、働きやすい環境づくりを進めていきたいと思っています」

(聞き手:戸川明美)

プロフィール
杉田 緑(すぎた・みどり)
日本IBM ダイバーシティー&インクルージョン 担当パートナー

大学卒業後、日本IBMにITスペシャリストとして入社。ソフトウェアシステム構築のプロジェクトマネジメント、サービス提案などを経験。その後、デンマーク留学を経て2014年にMBA取得後、人事部門へ。新卒採用やマネージャー向け施策の企画に携わる。20年10月から現職。
水野 矩美加(みずの・くみか)
水野 矩美加(みずの・くみか)
アパレル、コンサルタント会社を経てキャリアデザインをはじめとする人材教育に携わる。多くの研修を行う中で働き方、外見演出、話し方などの自己表現方法がコミュニケーションに与える影響に関心を持ち探求。2017年から、ライター活動もスタート。個人のキャリア、女性活躍、ダイバーシティに関わる内容をテーマに扱っている。
戸川 明美(とがわ・あけみ)
戸川 明美(とがわ・あけみ)
10数年の金融機関OLの経験を経て、2015年からフリーライター、翻訳業をスタート。企業への取材&ライティングを多く行う中で、女性活躍やダイバーシティの推進、働き方の取り組みに興味をもつ。
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