菅首相が直々に創設を指示したデジタル庁。2020年9月30日付で、庁創設に向け「準備室」が設置され、動き出しています。直前となる9月23日に行われた閣僚会議では、行政デジタル化を「一丁目一番地の最優先事項」として挙げたうえで、(1)マイナンバーカードの普及(2)行政サービスのデジタル化(3)テレワーク化の拡充(4)国と地方の情報システム共通化----などを喫緊課題として取り組むことが確認されました。
「デジタル庁」は、これらの政策について責任をもって強力に進めるために、新設の指示が菅首相からあったとのことでした。
デジタル庁に見る組織変革のアプローチ
政府によるデジタル庁の創設の取り組み。これは民間企業のテレワーク導入やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に近いなぁ、と感じました。ということで、今回はデジタル庁に見る組織変革のアプローチについて、考えてみました。
デジタル庁創設の閣僚会議を民間に例えるなら、社長、副社長、総務部長、人事部長、社長室長、各事業部長がそろった経営幹部会議の場で、
「新社長から直々に新部署創設するよう指示がありました。デジタルの司令塔となるDX推進室です。大きな改革を進めるつもりなので、各部協力お願いします!!」
という強い方針発表があったというところでしょうか。
10月以降、「投書箱」、「年金手続きデジタル化」、「ハンコ廃止」、「デジタル教科書」などなど、さまざまな検討事項がニュースになっています。
実際、どうなるかは今後を見守ることになりますが、行政改革大臣とデジタル改革大臣が連携して動く立ち上げの様子は、「いよいよデジタルに人もお金も投入していく」「いよいよ本気である」という印象と菅首相の覚悟のようなものを感じます。
さて、国のことは別にいいけど、ウチの会社のデジタル庁長官ってだれだ?
国がいよいよ本気かぁ、なるほど~。ん、ちょっと待てよ?! 国がそうなるのはいいけど、うちの会社のデジタル庁長官って○○部長かなぁ? たしかにシステム畑出身で、システムはもちろん、業務もある程度知ってるけど、イマイチ突破力に欠けるようなぁ......。大丈夫なの???
この話は、あくまでも中小企業のありそうなシーンを妄想したものです。でも、こうした会社は多いと思うのは私だけでしょうか――。
今、社会的にテレワークが推奨され、さらにこれからデジタル化しようという時期にはいってきています。IT・情報系企業であれば、デジタルリテラシーの高い社員もすでに一定数いて、準備室など不要! という会社もあるかもしれません。
しかし、製造業、サービス業など他業種では、業務とデジタル両面で改革していくことは容易ではありません。デジタル化してもなかなか慣れないベテラン社員、「業務知識を盾に」なるべくリスク強調しようとする古参幹部がでるだろうことは容易に想像がつきます。
残念ながら社内改革では「必ず起きる摩擦」なのです。この社内変革の司令塔業務をデジタル担当部長一人に任せるのは、大変です。
業務とデジタルと組織を動かすって並大抵のことではありません。
大企業の社内稟議、ハンコ7つは当たり前!?
「案件の規模にもよりますが、社内稟議で3か月。ハンコは7つくらい必要ですね。だいたい稟議で止まっているのが誰なのか、わかっているので、遅かったら、個別に説明にいくんですよねぇ。こんなんではダメですよね」(大手製造業、管理職)
たしかに、課題だとは思いますが、IT業種ではない製造業や小売業の大手企業で、社員規模が大きい場合、これまでの慣例でハンコ主義が出回っていて、なかなか変えられないというのは理解できます。それで今まで運用できてきたわけなので。
ですが、行政のデジタル化が進むことになれば、それに応じて大手企業でもデジタル変革を求められることになります。ただ、大手企業であれば、突破口は複数ありそうですし、問題を解決してくはずです。それは「お金と人に投資ができる」からです。
一方の小規模企業は、トップの突破力が勝負。
「ウチは、社員数も少ないですし、最初は戸惑いましたけどテレワークに慣れてきましたよ」
業種にもよりますが、社員数の少ない会社の社長はキャラが強くて突破力があるタイプをよくお見掛けします。デジタル改革といっても、社長の推進力によってだいぶ改善される余地がありそうです。
中堅中小企業の問題は、「適任者も見つからない。お金もそこまではない」こと(涙)。大企業、小規模はともかく、中間規模の会社で組織が階層化している場合には、適任者も見つからない、いても現業で忙しい、そこまで投資もしにくい......などの状況で、簡単ではなさそうです。
行革担当とデジタル担当の「2+1」なら、ウチでもできるかも
話を、デジタル庁に戻します。では、大組織「ニッポン」の行政デジタル化に取り組む閣僚の取り組みに参考はないか、とみていますと参考材料がありました。「2+1」です。
「2+1」とは、行政改革大臣とデジタル改革大臣の2人に対して、各省庁大臣1人で面談をして、課題を吸い上げて解決策を検討していくという取り組みのようです。これを民間に例えるなら、「テレワーク導入担当とデジタル担当のふたりがかり」、でしょう。業務改革担当とデジタル担当がペアになって、厄介な部長に対峙していくということになるでしょうか。
なるほど、ふたりがかりで、挟みうち! いや、手続き面とデジタル化面の各担当者を分けて、協同して課題を集める段階から動く。なるほど、これならスーパーマン1人を仕立てなくてもよくなり、少しは改革できそうな気がします。
聞くところでは、デジタル庁では民間の力も登用してくそうです。中小企業の多くは、人が足りない、適任者がいなくて困っている。そんな社長が多いと思いますが、不足している力は外部に頼ることにして、思い切って中堅社員に手を挙げさせてみるのは、社員にとっても思わぬチャンスになるかもしれません。
「社長!やっぱり、わが社にもデジタル庁、いやテレワーク庁をつくりましょうよ!」
ん~、言いたいけど、言えない。でも言えたら、意外と出世の道も拓けるかもしれません。(高井信洋)
参考記事
閣僚会議議事録 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/digital_kaikaku/dai1/gijiroku.pdf
日経クロステック https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/08784/