私は警察と民間のクレーム対応の現場で、さまざまな体験をしてきた。今、警察も団塊世代の大量退職に伴い世代バランスは大幅に変化したという。様々な事案を体験したベテランは減り、警察官になって10年未満の割合は40%を超えてきているという。
私の人生の転機は、39歳の時に警察官を辞めて流通業に転職した時であることは間違いない。官と民では、さまざまな違いがある。たとえば朝礼では、「気をつけ!」「右向け右!」「右へならえ!」で整列していたのが、「いらっしゃいませ」「かしこまりました」という接客用語の唱和に変わった。
おおっぴらに金品を要求することはない
警察(公務員)は競争がない。しかし、民間企業は違う。たとえば、ひとつの街にいくつものスーパーがあれば、自社の店舗に足を運んでもらえるように、接客サービスの向上や品揃えの工夫に努めなければならない。メーカーも同様である。ライバル商品との差別化を図り、お客様に自社商品を選んでいただく必要がある。接客用語の唱和も、こうした厳しい現実のうえにあることを、警察官だった私がこの理屈を理解するには、しばらく時間がかかった。
そして、何よりも衝撃を受けたのは、それは、「困った人たち」への対処のしかたである。
警察は、いわゆる「クロ(黒)」と断定できれば、逮捕することができる。クロと断定したら、それ以上は悩まなくてもすんだ。
ところが、民間ではそうはいかない。相手にするのは、おもにクロと断定できない「グレー(灰色)」の人々だからである。企業などにクレームをつけ、金品や特別待遇を「要求」する悪質なクレーマーはその典型だ。悪質クレーマーは、おおっぴらに金品を要求することはない。
そうなると、彼らの迷惑行為を警察に通報したとしても、容易に解決できるものではない。それは私自身がよくわかっている。