「どないしてくれるんや!」と客席で仁王立ち 「つい大声」か「金銭目的」か、を見抜くポイント

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「終わりのないクレームはない」

   私は、この一連の経緯について、その日のうちに店長から報告を受けた。

   私は報告を聞いて、すぐに「怪しい」と直感した。なぜか?

   男性客は、一見まともな苦情に見せかけている。理屈としては、「店内の椅子に付着していたガムがスーツについた。このスーツは舶来で彼女からのプレゼントなのでクリーニングではもとに戻らない。だから、弁償しろ」というものである。

   ところが、冷静に状況を振り返ってみると、おかしなところが分かるはずだ。

   まず、大声を出して、関係者以外立ち入り禁止の事務所に乱入してきたこと。店長自身、「事務所に入ってきて、大声でまくし立てるのは、特殊なケースだな」と最初に感じたそうである。普通のお客様でも、店員の接客態度が悪いと、つい声を荒げることがあるが、悪質クレーマーは意識的に怒鳴り声を出して相手をパニックに陥れ、その混乱に乗じて金品をせしめるようとするのが常套手段である。

   また、10万円という金額を提示しながら、店長に即答を求めていることには、悪質さが強く感じられる。悪質クレーマーにとっては、「交渉」が長引けば長引くほど不利になるからである。

   結局、この一件は電話で、「弁護士と相談してから、改めて連絡させていただきます」という言葉を繰り返して伝え続けるようにアドバイスした。すると30分くらいの押し問答の末、突然相手から「誠意のない店はインターネットに書き込んで『ぶっ潰してやる』」と捨て台詞を最後に、音沙汰がなくなったという。30代半ばの店長は、こう振り返った。

「その場で、慌てて判断(回答)しなかったことがよかったと思います。混乱のさなかでは、とても冷静な対応はできませんから。自分で考える時間や誰かに相談できることがいかに大切かを痛感しました。
そして、『終わらないトラブル・クレームはひとつもない』という援川さんの言葉に勇気づけられました」「ピンチを脱した店舗のチームワークは強化され、売り上げも順調です」

   ピンチはチャンスでもある。こうした感謝の言葉が、今も私を励ましてくれる。

   実はトラブルやクレーマー対応は「出口のない迷路に迷い込んだ状態」であり視点を変え、ポイントを押さえておけば「終わりのないクレームはない」のである。(援川聡)

援川 聡(えんかわ・さとる)
1956年生まれ。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたプロの「特命担当」。2002年、企業などのトラブル管理・解決を支援するエンゴシステムを設立、代表取締役に就任。著書に『理不尽な人に克つ方法』(小学館)、『現場の悩みを知り尽くしたプロが教える クレーム対応の教科書』(ダイヤモンド社)など多数。
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