マック異物混入騒動と悪質クレーマーのはざま 「得体の知れない不気味さ」を見抜く

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   年明け早々、マクドナルドの商品にビニール片やプラスティック片が混入した問題が物議をかもしている。メディアは競い合いヒステリックな報道を続け、ワイドショーではしたり顔のコメンテーターが「杜撰な対応だ」と指摘する。

   たしかに、あと付けで解説すれば対応はあまい。顧客満足(CSカスタマーサティスファクション)、お客様第一社会の中で、クレームは「宝の山」。商品開発のアイデアや、企業・現場を改善するためのヒントが詰まっている貴重な情報源である。

頭では分かっていても「毅然となれない」

そんなに怒鳴らなくても・・・
そんなに怒鳴らなくても・・・

   しかし、あるべき姿、理想・理念では分かっていても、対応するのは生身の人間だ。明確な答えがない中で、理想通りにはいかないし、ストレスはたまり、キレそうにもなる。

   また、異物混入の過剰な報道が続けば、これに便乗する悪質な輩も増えてくるのは間違いない。

   私も転職した当時は、顧客満足と悪質クレーマーの狭間では何度も途方に暮れた。すでに店舗では対応しきれない段階に来ている相手は、いわゆる「クレーマー」。訪問して対峙すると、警察時代に数々の人間を見てきた私には反社会的な輩であることは一目瞭然だ。

   しかし相手は、強面でも社会通念上はお客様であり、にわかに「恐喝」とは断定できない。客観的状況は購入した商品に異物が混入していたことへの不満を爆発させている状態と言え、接客のミスに対する指摘を延々とついてくるが、具体的な要求はしてこない。

   タフで悩ましい交渉が続くが、元刑事でも、明確な解決策はなく、正座した足を崩すことさえもできない状況だった。

   こうした現場で転職(警察をやめたこと)を後悔しながら思い出した事は、私が刑事時代にアドバイスをしていた言葉。

「困っているのはよく分かるが具体的な要求がないと『恐喝』とは言えないですね」
(問い)「どうしたらいいんですか?」
「それは、まだ、恐喝と言えない以上、お宅の企業(お店)で毅然と対応しなさい」「しかし、不当な要求であれば断りなさい。断固拒否しなさい」

   誰あろう、その私が警察をやめ民間人となった時、弱い自分(立場)に途方に暮れた。まだ恐喝と断定できないグレーゾーンでのクレーマー対応時に「どうすればよいのか分からない」「毅然となれない」「断れない・拒否できない」八方ふさがり状態だったのである。

「刑事気質で撃退」をやめると急に・・・

   苦しみながらも投げ出さずにクレーマーと向き合い、トラブルを乗り越えてきたが、あっという間に20年近くが過ぎた。何度も窮した場面に出くわしたが「肝据えて」何とか乗り越え今日があるのは、亡き恩師の教えを信じ、心の支えがあったからである。

   そして、あるときから決着を急がず、相手のクレーマーを納得させようと焦ったり、刑事気質で撃退しようとしたりするのをやめて急に楽になった。

   現在の私は、相手がどのような立場に立ったお客様だとしても「土下座」をすることは絶対にない。深々と頭を下げてお詫びの気持ちを伝えるが、「土下座をしろ!」と言われれば「申し訳ありませんが、土下座はできません」とお断りする。

   また、クレーマーの自宅を訪問しても、長時間足のしびれを我慢する苦労はない。

   訪問先でのやり方は、こうだ。何らかの理由でクレームが発生し、お詫びのために訪問しているわけだから、当然のように最初は正座してお詫びの言葉を述べる。

   10分経過した。ころ合いを見て相手に切り出す。「大変申し訳ありませんが、足を崩させていただきます」「少し腰(膝)が悪いものですから。失礼します」とことわり自ら足を崩す。焦らず、我慢せず勇気を持って積極的に「お断り」する方法だ。

   ここで、謝罪から話し合いに方向転換するが、シッカリ礼を尽くしていれば、拒否され怒鳴られることはまずない。

   万が一、足を崩すことが許されず正座を強要されたら、話し合いを拒否されたわけであるから「今日は話し合いに応じていただけないようですから、出直します」と退去する。

「現代社会の闇」

   このようにして、自らの体験により、焦らず相手の悪質・反社会性を見極めながら段階を踏んで乗り越える解決方法を身につけてきたのである。

   まず自らの足元を固めた上で焦らなければ、あげ足を取られることがない。相手の外面ではなく本質を見極め、柔軟に対応できるから、理不尽な要求に心が折れることなく、「無理矢理(槍)」な攻撃を交わし乗り越えることができるようになった。

   現在も格差社会や世の中の歪みを反映して、「理不尽なクレーマー」は増加の一途をたどっている。少し見方を換えれば、事件として表に出てこない悪質クレーマーや、真面目な人がいつ何時モンスターに変身しかねないという現実が、体感治安を悪化させている。

   ほんの些細なことや勘違いで、すぐにヤクザのような言葉づかいで怒鳴りあげるのは、まさに瞬間湯沸かし器である。事実、堅実な生活をしているはずの公務員が地元スーパーではクレームの常習者であったり、まじめな会社員や家庭の主婦が常識外れな要求を突きつけたりしてくることは珍しくない。

   スピード社会の中でストレスを抱えながら、いっぱいいっぱいの状態で生活している人にとって、些細な理由によってキレて殺人事件が起こるように、何気ない一言や初期対応のミスなどのきっかけで消費者がクレーマーに豹変することがある。クレーマーも「得体の知れない不気味さ」という点では、よくわからない動機で凶行に及ぶ犯罪と共通した「現代社会の闇」と言える。(援川聡)

援川 聡(えんかわ・さとる)
1956年生まれ。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたプロの「特命担当」。2002年、企業などのトラブル管理・解決を支援するエンゴシステムを設立、代表取締役に就任。著書に『理不尽な人に克つ方法』(小学館)、『現場の悩みを知り尽くしたプロが教える クレーム対応の教科書』(ダイヤモンド社)など多数。
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