相手に同意を示す「失礼しました」「承知しました」・・・
客はアルコールのせいで、一種の興奮状態にあるわけで、そもそも酔っているからタクシーを利用しているのである。私たちは普段、ルールやマナーを守って暮らしているだけに、自分勝手な思い込みで怒鳴り込んでくるクレーマーにもそれを求めがちだが、それは無理な話である。
タクシーの乗務員は狭い空間で、酔っぱらいなどのわがままな客に、ひとりで応対しなければならない。また、危機的な状況になっても、簡単には「その場」から逃げ出すこともできない。タクシー業は、いわば究極の接客業といえるだろう。
ところが、一昔前のタイプの乗務員のなかには「客とは背中越しで適当に話をすれば事が足りる」とタカをくくっている人が多い。この乗務員も例外ではない。自分よりも年下の乗客に叱責された瞬間、不用意に「だから」の一言を発したのは、大きな失敗だった。
相手から理不尽なことを言われると、思わず反論したくなるし、厳しい口調で責められれば、つい言い訳したくなるものだが、反抗的とも、逃げ腰ともとれる一言は相手をさらにヒートアップさせる。
「だから」「ですから」「だって」「でも」というフレーズは、トラブルの初期対応では禁句だ。私は、こうしたフレーズを「D言葉」と名付けて、注意を呼びかけている。
では、どのように対応すればいいのだろうか?
それはD言葉に代わって、「S言葉」を使うことである。
S言葉とは、「失礼しました」「承知しました」といった、相手に同意を示すフレーズである。
客「ちゃんと聞いているのか!」
乗務員「失礼しました。次の交差点を右に曲がればよろしいですね」
先の例のように「だから」ではなく、こう対応していれば、つつがなく目的地に到着していただろう。