暮れもあわただしくなってくると、運転マナーに関する喧嘩や傷害事件の増加とともに、タクシー車内のトラブルに関する報道も目立つようになる。乗務員が客に暴力を振るわれたり、詐欺や強盗の被害に遭ったりしている。
こうした事件がクローズアップされるようになってから、タクシー会社では車載カメラ積極的を積極的に導入している。その記録映像によって、乗務員と客のやりとりが克明に再現されるようになった。私も、依頼を受けて映像を見ながらトラブルの原因を探ったり、その防止策について助言したりしている。
「だから」「だって」「でも」・・・
ある車載カメラの映像には、こんなトラブル現場の生々しい光景が映し出されていた。
時刻は深夜1時過ぎ。客は40代ぐらいの男性で、かなり酒に酔っている。一方、乗務員は実直そうな60代の男性だ。
客「次の交差点を右」
乗務員「ハィ......」
客「返事が聞こえない」
乗務員「はい」
客「ちゃんと聞いているのか!」
乗務員「だから、『はい』って言ってるじゃないですか」
客「なんだ、その態度は! 客をなんだと思ってるんだ」
客は後部座席から身を乗り出し、いまにも乗務員に殴りかからんばかりである。
このケースでは、一般常識からいって乗務員に非はないように思える。客が酔いにまかせて、言いがかりをつけているだけだ。
しかしここで、乗務員が客に常識を求めてもしかたがない。トラブルになれば様々なリスクが生じる。トラブルの火種をしっかりと初期消火して、酔った(困った)客を目的地まで送り届け料金を頂いてこそプロのタクシードライバーと言える。