「支離滅裂」型クレーマーに効く「聞き流し」テクニック

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   ある中堅スーパーでの出来事である。

   ことの発端は、「女性店員の態度が悪い」という男性客からのクレームだった。

「半額セールのパンの値札が違っていた。もともとの値段が106円だったのに、『160円の半額』になっていた。だから、レジに向かって『ちょっと、お姉さん、こっち来て』と呼んだのに、なかなか動かなかった」

相手のペースに巻き込まれる危険性

聞き流そう
聞き流そう

   店長がお詫びしたあとも、しつこく電話をかけてくる。そこでお客様相談室にバトンタッチした。

「佐藤(仮名)という女、クビにしたほうがええ。 愛想のかけらもない」

   先制パンチが飛んでくる。この男性は従業員が胸に付けている名札を見て、女性店員の名前を覚えていたようだ。しかし、ここで慌ててはいけない。

「このたびは、ご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません」

   まずはお詫びからスタートする。すると、二の矢が飛んできた。

「佐藤に土下座して謝罪させてくれ」

   お約束の「土下座」要求だ。店員は、すでに店舗で男性客にお詫びしているが、それでは納得がいかないという。こうした粘着質のクレーマーが増えたのも、最近の傾向だ。ただ、この男性客の場合、それだけではすまなかった。話があちこちに飛んで、本当の狙いがどこにあるのか、わからなくなってくるのだ。

   「クビにしろ!土下座させろ!」とわめいたかと思えば、急に声のトーンを落として言う。

   「お宅の総菜はおいしい。仕事のあとの楽しみだ。それなのに、接客マナーがまったくなっていない。それは店員個人のせいというより、会社の教育が悪いからだ」

   また、こんなことも言い出す。「これまでにもレジの打ち間違いがあったと思う。なんぼ損しているのかはわからん。レシートは残っていない」

   脈絡のない話が延々と続く。

   このように、話題があちこちに飛ぶようになったら、問題の本質を再確認したほうがいい。そうすることで、相手の「反社会性」が見えてくる。

   その際、相手が筋違いなことをあれこれ言ってきても、「はい」「なるほど」「そうですか」「ありがとうございます」「申し訳ございません」などとあいづちを打ちながら、聞き流すことである。いちいち相手の話に付き合っていると、相手のペースに巻き込まれ、解決の糸口が見出せなくなる。

物欲しげな気配がびんびんと

   値札が間違っていたことや、店員の接客態度が悪いという言い分に対しては、丁重にお詫びをするが、それ以上の要求に応じる必要はない。もちろん、女性店員をクビにしたり、土下座させたりするのは許されない。

   このケースでは、こんなやりとりがあった。

クレーマー「あの女、挨拶もろくにできない」
担当者「申し訳ございません。従業員の指導を徹底して参ります」
クレーマー「チラシに『半額セール』と書いてあれば、誰だって買いたくなるよな。その値札が間違っていた!」
担当者「ご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありません。お求めの商品をご用意いたしますので、お持ちください」
クレーマー「お宅の総菜は本当においしい。とくに揚げ物はエエものを売っとる」
担当者「ありがとうございます」
クレーマー「僕も会社では決算書を作ったりしとる。ビジネスマンとして、数字は気になるんだ。だから、いつも広告の値段やレシートをチェックはしている」
担当者「なるほど」
クレーマー「ぶっちゃけて言えば、証拠がないのに『金を返せ』とは言えない」
担当者「はい」
クレーマー「僕はこれでも、有名大学の法学部出身。司法試験には受からなかったが、法律には詳しいつもりだ」
担当者「そうですか。すごいですね」
クレーマー「金銭の問題じゃない。補償してほしいが誠意の問題だ!」

   恐喝になるようなヘマはしないということらしいが、物欲しげな気配がびんびんと伝わってくる。同時に、クレーマーには手詰まり感が漂う。そして、ついに馬脚をあらわした。

「ホンマは『カネとかはいらん!』と言いたいんやけど、それでは気持ちが収まりません。僕の気持ちもわかってくださいよ。クレームがあったら、仮に客に過失があったとしても、手土産を持って謝罪に行くもんでしょう」

「できること」と「できないこと」をはっきり告げる

   丁寧な物言いに変わったが、要するに金品の催促である。ここからは、「できること」と「できないこと」をはっきり告げる段階に入る。クレーマーとの力関係は、少しずつ変化していく。

   担当者「お客様のご指摘は、私どもにとって大変勉強になりました。ありがとうございます」

   まずは、こういう言い方で「終着点」をほのめかす。すると、クレーマーは最後の攻撃を仕掛けてくる。口調もガラリと変わった。

「あんたは、僕に敵意を持ってるとしか思えん。こちらに証拠がないことをいいことに、『知らぬ、存ぜぬ』か! 怖いなぁ。この一件が原因でウツになって、仕事ができんようになったらどうしようかと、不安になるわ」

   もはや支離滅裂。恐喝に近いとも言ってもいい。そこで、こう言葉を引き取る。

   担当者「では、どのようにすればよろしいでしょうか?」

   クレーマー「とにかく、佐藤の謝罪がほしい」

   担当者「はい、上司の私がお詫びさせていただきます。それでも、佐藤をクビにしろとか、土下座させろとおっしゃるのであれば、それは強要罪に当たり、私どもとしても看過できません」

   クレーマーは、担当者の丁寧かつきっぱりとした口調に少しひるんだようだ。

   クレーマー「それはわかっとる。クビとか土下座はしなくていい」

   担当者「よく言い聞かせ、今後の業務に生かすよう、しっかり指導してまいります」

   ようやく、クレーマーの「口撃」は収まった。そして、こう一言。

   クレーマー「その言葉を待っとった」

   負け惜しみであることは手に取るようにわかったが、「今後とも、ご贔屓にしてくださいますようお願いいたします」と、お礼を述べるにとどめ、クレームは収まった。(援川聡)

援川 聡(えんかわ・さとる)
1956年生まれ。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたプロの「特命担当」。2002年、企業などのトラブル管理・解決を支援するエンゴシステムを設立、代表取締役に就任。著書に『理不尽な人に克つ方法』(小学館)、『現場の悩みを知り尽くしたプロが教える クレーム対応の教科書』(ダイヤモンド社)など多数。
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