「できること」と「できないこと」をはっきり告げる
丁寧な物言いに変わったが、要するに金品の催促である。ここからは、「できること」と「できないこと」をはっきり告げる段階に入る。クレーマーとの力関係は、少しずつ変化していく。
担当者「お客様のご指摘は、私どもにとって大変勉強になりました。ありがとうございます」
まずは、こういう言い方で「終着点」をほのめかす。すると、クレーマーは最後の攻撃を仕掛けてくる。口調もガラリと変わった。
「あんたは、僕に敵意を持ってるとしか思えん。こちらに証拠がないことをいいことに、『知らぬ、存ぜぬ』か! 怖いなぁ。この一件が原因でウツになって、仕事ができんようになったらどうしようかと、不安になるわ」
もはや支離滅裂。恐喝に近いとも言ってもいい。そこで、こう言葉を引き取る。
担当者「では、どのようにすればよろしいでしょうか?」
クレーマー「とにかく、佐藤の謝罪がほしい」
担当者「はい、上司の私がお詫びさせていただきます。それでも、佐藤をクビにしろとか、土下座させろとおっしゃるのであれば、それは強要罪に当たり、私どもとしても看過できません」
クレーマーは、担当者の丁寧かつきっぱりとした口調に少しひるんだようだ。
クレーマー「それはわかっとる。クビとか土下座はしなくていい」
担当者「よく言い聞かせ、今後の業務に生かすよう、しっかり指導してまいります」
ようやく、クレーマーの「口撃」は収まった。そして、こう一言。
クレーマー「その言葉を待っとった」
負け惜しみであることは手に取るようにわかったが、「今後とも、ご贔屓にしてくださいますようお願いいたします」と、お礼を述べるにとどめ、クレームは収まった。(援川聡)