クレーマーが「一目置く」対応者とは

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   前回に続き、土下座事件の問題点を取り上げる。「土下座」を店側が拒否しても、しつこく強要してきた場合の具体的な想定問答だ。

●クレーマー
「接客がなっていない」「とにかく、謝罪しろ!」
「頭を下げるだけでは話しにならない」「誠意を見せろ」
「土下座しろ!」「クビにしろ!」「念書をかけ」
○担当者
「はい、お詫びはきちんとさせていただきます」「申し訳ありませんでした」
「ただ、●●をクビにしろとか、土下座させろとおっしゃっても出来かねます」
「無理です」「できません」「お断りします」
「これ以上強制されますと、それは強要罪に当たります」
「私どもとしても看過できません」
「弁護士に相談して法的な対応も考えます」
「しつこく強制すれば『強要罪』、お金や物品を要求すれば『恐喝罪』にあたります」

「つながっている感」があれば毅然となれる

おいっ、そこのお前!
おいっ、そこのお前!

   クレーム発生現場で土下座をする必要はない。押し売りを家の中に入れる必要がないのと同じであり、玄関先で断るのがベストである。「無理です」「土下座はできません」ときっぱり断る方法を、クレーム対応の引き出しに準備しておくとよい。

   トラブル発生時に、ひとりで対応するのは、心許ない。たとえば、強面の相手に対しては、その外見だけで気後れする。また、なかなかトラブルが解決しないと、うつ状態に陥るケースもある。

   そんなときには、組織的なバックアップが必要なのである。クレーマーに対しては、職場の仲間が協力したり、全社的に対応をしたりできる。

   言い尽くされた言葉だが、現場からの「ホウレンソウ」と具体的なサポート体制の確立。窮地に追い込まれても、「つながっている」と思えれば、モンスターにも毅然と立ち向かうことができる。

   また、相手の悪質性をはっきり見極められたときは、長期戦に持ち込むためにも「個人戦」から「組織戦」に大きく舵を切らなければならない。ひとりの「持ち時間」には限りがあるが、組織全体でとらえれば、時間は十分にあるからだ。組織として、ゆったりとえればいいのである。

逃げれば追っかけてくる

   具体的には、相手の主張を素直に、かつ冷静に聞き、非があれば丁重にお詫びする。いきなり企業の論理で反論したり、言い訳したりするのは禁物。「言いくるめられてたまるか」と、怒りを大きくさせては元も子もない。

   こんなクレーマーの証言もある。

「クレームをつけたとき、中途半端な説明で逃げようとされたら、ガンガン行くしかない」「エスカレートさせにくいのは、言い分をじっくり聞こうとする人。こちらの言い分に耳を傾けてくれると、むやみなことは言えない」
「できることと、できないことの基準が明確で毅然とした対応をされると、手強い相手だと一目置く」

   クレーマーは、相手が逃げようとすると、追っかけてくる。クレームを嫌がっている、クレームから逃げたがっているという姿勢を感じとると、どんどん攻め込んでくる。また、何かのきっかけでキレてしまった「お客様」も、逃げ腰の態度を見せられると、ますます怒りのトーンを上げてくる。

担当者が「迷路」に踏み込まないようにサポート

   今も私は、クレームの現場をリアルタイムでサポートしているが、特に気をつけているのは、担当者が「迷路」に踏み込まないようにすることだ。

   とくに、ハードクレームに対応するとき、早く終わらせたい担当者は、とかく「近道」を探そうとする。しかし、それが失敗のもとである。クレームの現場にひとりで立つのは、寒風吹きすさぶ雪渓で深い谷底を見ているようなものだ。不安と恐怖でパニックを起こし、「クレバス」に転落するかもしれない。そこから脱出するための案内役が必要なのである。店舗やビルに非常口が準備してあるのと同じことだ。

   たとえば、小売店にクレームが持ち込まれたとしよう。担当者ができるだけ早く解決したいと思うのは人情である。しかし、面倒なことから手離れしたい一心で、金銭によって解決しようとしたり、メーカーにクレーム対応を丸投げしたりすると、かえって問題をこじらせてしまう。そんなとき、私が軌道修正をする。場合によっては、警察に相談したり、消費者センターなど関連機関との連携を図ったりすることもある。

   担当者自身、安易な方法では本当の解決にならないことを知っている。一時的に迷いが生じただけであることが多いのだ。あるいは、対応のしかたに95%の自信はあっても、残り5%に不安が残るということもある。そこで私は、担当者の背中をそっと押してやる。そうすることで、担当者はより安全な道に一歩を踏み出すことができる。

   私の携帯電話はいつも電源が入っている。(援川聡)


   以前紹介した『クレーム対応のガイドライン』を思い出してほしい。参考に再掲する。

I:基本方針:安易に金銭(物)で解決しない。「誠意」とはお金ではありません。

II:行動指針<クレーム対応の流れ>
1:スピーディな対応 →誠心誠意お詫びの姿勢
2:確実な実態把握 →上手に聞き、見極め判断材料を収集
3:悪質なものは組織(チームワーク)で解決→有機的な連携(警察相談・弁護士との協議を有効活用し組織連動)

   ちなみに、「モンスター」によるトラブル事例などを取り上げる、テレビ番組「教訓のススメ」(フジテレビ系、MCダウンタウン)が、あさって11月21日夜に放送予定(20日追記、1週延期に)で、私も出演し解説している。

援川 聡(えんかわ・さとる)
1956年生まれ。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたプロの「特命担当」。2002年、企業などのトラブル管理・解決を支援するエンゴシステムを設立、代表取締役に就任。著書に『理不尽な人に克つ方法』(小学館)、『現場の悩みを知り尽くしたプロが教える クレーム対応の教科書』(ダイヤモンド社)など多数。
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