大阪府茨木市内のコンビニで店長らが土下座をさせられた事件は、社会に大きなインパクトを与えた。男女4人が土下座を強要し、タバコ4カートンを脅し取った恐喝事件である。
さらに、その後の警察の捜査で、コンビニを管轄するファミリーマート営業所長にも数回電話をかけ、
「煙草と携帯代だけでは話になりませんわ」
「誠意とはお金のことですわ」
などと脅して、営業所に対しても恐喝を企てたとして再逮捕されている。
少し前には、衣料品の「しまむら」でも、店員に土下座を強要した事件が話題になった。
「事件が発覚した経緯」に注目
今回、私が取り上げたい(問題にしたい)のは犯人云々ではない。事件が発覚した経緯である。
二つの事件は、いずれも土下座のリアルな動画がインターネット上で盛り上がり警察が動いた結果、犯人が逮捕された。
こうした事実を裏返せば、犯人(関係者)が動画サイトに映像を乗せなければ、事件にならなかった可能性が大きいということである。要するに、現場で起こった事件は「臭いものに蓋をされて」表ざたにならなかった。若しくは、味をしめた「輩」の恐喝が延々と続いていた可能性が高いといえる。
コンビニや量販店に防犯カメラが設置されている事は広く知られている。いや、既に防犯カメラなしでは営業すらできない時代だと言っても過言ではない。ということは、土下座を強要されているリアルな被害映像は、被害者側にも存在しているのである。しかしながら、店舗も営業所も本部(本社)も、事件を積極的にとらえていない。「被害者(店舗や営業所)が警察に被害届を提出して犯人が逮捕されたのではない」というのが事実である。
勘違いしないでほしいが、私は、ブラック企業云々を指摘しているのではない。
今回の事件も本部(本社)までは、報告がなされていなかったことは容易に想像できる。組織対応しようにもできないのが事実であろう。
「毅然と対応しなければならない」とは言うけれど
しかし、誰もが、できれば避けて通りたいのがクレーマーやトラブル対応の現場。こうした逃げ腰の企業姿勢や店舗の事なかれ体質にこそ問題がある。言いかえれば「組織の隙間という『闇』に巣食っている」のが、前述の「輩」なのである。
いつの時代も、こうした「輩」は存在する。どうすれば良いのか、模範解答はおそらくこうだ。「悪質なクレーマーには毅然と対応しなければならない」
顧客満足の講師は「お客様のご不満を満足に変える」「クレームを感謝の言葉に変える」と言う。そして、「悪質なクレームには毅然と対応するように」と達人の教えや正論・きれいごとを諭す。しかし、現実はそう簡単ではない。あるべき姿、理想・理念では分かっていても、対応するのは生身の人間。理想通りにはいかないし、ストレスはたまる一方だ。いきなり発生したクレームに、現場で対応しなければならない担当者は泣きそうにもなる。
悪質クレーマーに対しては、毅然とした態度で臨まなければならない――。この論には、いささかの疑いもない。
しかし、クレームの現場で毅然とすることは決して容易なことではないのである。担当者は、理想と現実の狭間で苦悩している。私自身も、警察から小売業に転職した当初は、クレーマーに毅然としたくてもできないという現実を前に、うろたえるばかりだった。
店員の接客にクレームが発生したケースで考えてみよう。もし自分が当事者だったらどのように対応すれば良いのか。
まず、店員の接客態度が悪いという言い分に対しては、丁重にお詫びをするが、それ以上の要求に応じる必要はない。もちろん、土下座をする必要はない。「無理です」「土下座はできません」ときっぱり断れば良いのである。
拒否しても、なお、しつこく強要すれば「強要罪」に該当する。
具体的なやり取りは次回、紹介しよう。(援川聡)