前回に続き、「正論モンスター」について取り上げる。正論モンスターは、「社内」にもいる。社内での正論モンスターは業務上の関係から離れられないことから、なおさら厄介だ。
上司が部下をいじめることも、裏を返せば自分自身が抱えているストレスを発散していることが多い。ところが、それを本人も自覚していない。もちろん、自分の地位を脅かしかねない有能な部下を追い落とすなど、明確な目的をもっているケースもあるが、その場合でも「組織内の秩序」や「組織への忠誠心」を大義名分に、自分を正当化していることが多い。
無理難題を押しつける
企業に金銭の補償を求めるクレーマーにも、はじめから狙いをつけて用意周到な計画を立てる「プロ級」がいる一方で、「あわよくば、少しでもせしめよう」と、場当たり的に脅迫めいたことをする者もいる。
また、正論モンスターに疑問点やつじつまの合わない点を質問しても、まともな答えが返ってくることは極めて少ない。むしろ、正論に屁理屈をこね合わせて、相手を丸め込もうとすることが多い。それは、金品を狙った悪質クレーマーに限ったことではない。
たとえば、こんなケース。無理難題を押しつけるモンスター上司に、部下が異議を唱えた。
「課長、この販売計画をそのまま実行するのは難しいと思います。担当するメンバーが少なく、時間的に準備が間に合いそうにありません」
「すでに部長会議で決まったことだ。とにかくやってくれ」
上司は、部下の意見に耳を貸そうともしない。部下は意を決して進言する。
「こんどの新商品には社運がかかっているとうかがっております。それだけに、万全の態勢で臨みたいと思います。ついては、日程を再検討するか、人員を増やしていただけないでしょうか?」
ここで、上司は横目でチラッと部下を見る。一瞬、考え込むような素振りを見せるが、冷たい口調で言い放つ。
「社運を賭けた商品を任されているんだよ。もう少し、ガッツを見せてくれないかなぁ。キミだって、この商品をお客様に早く届けたいと思うだろう」
管理責任が問われることを恐れる上司は、是が非でも計画どおりに事を進めたい。その結果がどうであれ、それはそのとき考えればいいという了見だ。そこには、愛社精神とはほど遠い、自己保身があるだけである。
詐欺師がカマシとスカシの名人なら、モンスター上司は本音と建前を使い分ける達人である。
巧妙クレーマーが駆使する 「カマシ」と「スカシ」のテクニック
企業に金銭の補償を求めるクレーマーにも、はじめから狙いをつけて用意周到な計画を立てる「プロ級」がいる一方で、「あわよくば、少しでもせしめよう」と、場当たり的に脅迫めいたことをする者もいる。
「あなたは、給料を誰からもらっていますか? 会社から? そうですね。でも、そのお金を払っているのはお客様です。つまり、給料はお客様からいただいているのです」
あるセミナーで、講師のひとりはこう語っていた。なるほどと、感心させられる。
しかし私は、これと同じことを詐欺師のような「輩(やから)」から聞かされた経験がある。特徴のある風貌で、タダものではない雰囲気の男だが、企業の担当者を追及するときの殺し文句は、この講師が語った内容そのものだ。
「おまえは、いったい誰から給料をもらっているんや?」
「会社から......でしょうか?」
「アホか、お客様やろ。そんなことだから満足な接客もできないんや!」
輩は続ける。
「『しょうばい』とはどういう字を書くんだ?」
「......商売?」
「バカ野郎! 笑顔を売ることが『笑売(しょうばい)』や。よく覚えておけ!」
さらに、速射砲のようにまくしたてる。
「では、顧客満足とはなんだ? お宅の経営理念は?」
ここで、講師が指南する「正解」を回答すれば、相手は引き下がるだろうか?
「従業員の接客態度はもちろん、企業の倫理、経営者の人柄、社会的評価、広告宣伝など企業の提供するすべてのものについて、徹底的にお客様の視点に立って、つねにお客様が満足しているか否かを考えることが大切です」
こんな模範解答で応じたとしても、すかさず切り返してくる。
「わかっているのに、なぜ実践しない? 知っていて、やらないのは俺を馬鹿にしている証拠だ」
プロ級のクレーマーは、見せかけの「正論」を振りかざしながら、相手に恐怖心を抱かせたり、やさしく諭したりする。巧みに脅し(カマシ)と、なだめ(スカシ)を使い分ける手合いは、この講師の数倍の迫力をもって相手を追い詰めていくのである。(援川聡)