巧妙クレーマーが駆使する 「カマシ」と「スカシ」のテクニック
企業に金銭の補償を求めるクレーマーにも、はじめから狙いをつけて用意周到な計画を立てる「プロ級」がいる一方で、「あわよくば、少しでもせしめよう」と、場当たり的に脅迫めいたことをする者もいる。
「あなたは、給料を誰からもらっていますか? 会社から? そうですね。でも、そのお金を払っているのはお客様です。つまり、給料はお客様からいただいているのです」
あるセミナーで、講師のひとりはこう語っていた。なるほどと、感心させられる。
しかし私は、これと同じことを詐欺師のような「輩(やから)」から聞かされた経験がある。特徴のある風貌で、タダものではない雰囲気の男だが、企業の担当者を追及するときの殺し文句は、この講師が語った内容そのものだ。
「おまえは、いったい誰から給料をもらっているんや?」
「会社から......でしょうか?」
「アホか、お客様やろ。そんなことだから満足な接客もできないんや!」
輩は続ける。
「『しょうばい』とはどういう字を書くんだ?」
「......商売?」
「バカ野郎! 笑顔を売ることが『笑売(しょうばい)』や。よく覚えておけ!」
さらに、速射砲のようにまくしたてる。
「では、顧客満足とはなんだ? お宅の経営理念は?」
ここで、講師が指南する「正解」を回答すれば、相手は引き下がるだろうか?
「従業員の接客態度はもちろん、企業の倫理、経営者の人柄、社会的評価、広告宣伝など企業の提供するすべてのものについて、徹底的にお客様の視点に立って、つねにお客様が満足しているか否かを考えることが大切です」
こんな模範解答で応じたとしても、すかさず切り返してくる。
「わかっているのに、なぜ実践しない? 知っていて、やらないのは俺を馬鹿にしている証拠だ」
プロ級のクレーマーは、見せかけの「正論」を振りかざしながら、相手に恐怖心を抱かせたり、やさしく諭したりする。巧みに脅し(カマシ)と、なだめ(スカシ)を使い分ける手合いは、この講師の数倍の迫力をもって相手を追い詰めていくのである。(援川聡)