「正論」モンスターが「社会福祉」を襲う

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   俄かに信じられないかもしれないが、ボランティアや社会福祉の活動に対しても、悪質で執拗なクレームがある。こうした弱者支援の現場でも、正論をたてに理不尽なトラブルで業務が停滞し悩みの種になっているのである。

   それは、私のところへやってくる相談や講演依頼の業態が大きく変わってきていることからも分かる。

   数年前までは、企業や商工会議所・経営協会などが主流であった。それが最近は様変わりし、今年だけでも、

   「医師会や医療機関」「看護学校」「社会福祉協議会」「消費者センター」「官公庁や各種行政機関」「市民大学講座」「大学事務局」「暴力追放センター」など多種多様だ。

相手を言い負かして溜飲を下げている人々

正論でございます。が......
正論でございます。が......

   安全安心が求められる現代社会の中で、市民の生活に大きく貢献している組織や団体に対して、「正論」を振りかざしてクレームをつけているのである。

   こうした現象は日本のいたるところで蔓延し、何かと「正論」で理屈をつけては圧力をかけ答えを求めてくる。確かに正論なのであるが、すぐに対応できないことばかり。

   しかし、白黒結論がつかないと「納得できない!」と、瞬間湯沸かし器のように沸騰してモンスター化する。

   何かにつけて正論でクレームを付け、相手を言い負かして溜飲を下げている人々がいる。それが無理難題だとしても誰も言い返せない。言い返せば(反論すれば)、

「何さまのつもりだ!」「上司を出せ、責任者を呼べ!」「インターネットで公開するぞ!」

   たとえ上司が出たとしても、相手は納得しない......。

   なぜなら、いくら無理難題であっても、その主張は「正論」だからである。

   現場で対応する者は、たまったものではない。必死で頑張っていても、やがて心が折れ、仕事へのヤル気は消えうせ、今はただ黙って聞いている(従うだけ)。

   こうしたケースが増加する理由の一つにインターネットやSNS存在が挙げられる。

   今の時代、最初は1~2人からのクレームでも、ネットが増幅器になり、一瞬にして何万倍に膨れる可能性も否めない。

   そして、それがまるで世論であるかのように社会に認識されてしまい、その際のリスクは計り知れない。

隠された「動機や目的」

   そもそも、「正論モンスター」の常軌を逸した行動の裏には、さまざまな動機や目的が隠されている。

   これまでも触れてきたが、団塊世代に多いのが、寂しさを埋め合わせるように「説教魔」になるパターンだ。彼らは、モンスターの名にふさわしく傍若無人な振る舞いをするが、その心の奥底には強烈な思い入れのあることが多い。

   モンスターペアレントは、我が子に対する強烈な愛着があり、それがいびつな形で噴き出している。

「クラスの集合写真では、うちの子を真ん中にしてほしい」
「学校は勉強をするところ。うちの子だけには放課後に掃除をさせないで!」

   また、モンスターペイシェント(患者)には、自分や家族の健康・生命への渇望があり、それが満たされないと怒りを爆発させる。

   こんなケースがある。ある病院で、深夜に子どもを抱いた母親が飛び込んできた。その表情は青ざめている。当直にあたっていた脳外科医に母親は突っかかる。

「どうして小児科の先生がいないの! あなた脳外科? それでわかるの? すぐに小児科の先生を呼んできて!」

   子どもは鼻水をたらしてはいるが、体温は37度程度でとくに心配するような所見はない。しかし、母親の興奮は収まらない。

「うちの子になにかあったらどうするの! 訴えますよ!」

   こうした光景は、どこの病院でも見かけられる。

商品の「市場価値」以上の補償を求めることも

   モンスターが抱える思い入れの対象は、「人」であるとは限らない。商品やサービスについて強いこだわりをもっている場合も、トラブルを誘発しやすいだろう。

   たとえば、カーマニアにとって愛車はこのうえなく、いとおしいものである。着道楽にとってのブランド服しかり。いわゆる専門店で厄介なクレームが目立つのは、こうした消費者心理が働くからだ。

   また、贅沢品でなくても、そこに思い出が刻み込まれていれば、それはかけがえのない一品になるだろう。たとえば、「母の形見であるブローチがなくなった!」「恋人とのツーショット写真が破れてしまった!」「恩師に届けるはずの贈答品が破損している!」といったクレームを持ち込む人は、その商品の「市場価値」以上の補償を求めることがある。以前にも例に挙げた、「かけがえのない時間がぶち壊しだ!」と訴える老人の場合、形あるモノが傷つけられたわけではないが、思い入れの強さという点では同じである。

   ときとして、悪質クレーマーは、こうした理屈で詐欺まがいの脅しをかけてくるが、普段はまじめな人も「大切なもの」を粗末に扱われたと思い込んで、一気にモンスター化する可能性は大いにある。(援川聡)

援川 聡(えんかわ・さとる)
1956年生まれ。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたプロの「特命担当」。2002年、企業などのトラブル管理・解決を支援するエンゴシステムを設立、代表取締役に就任。著書に『理不尽な人に克つ方法』(小学館)、『現場の悩みを知り尽くしたプロが教える クレーム対応の教科書』(ダイヤモンド社)など多数。
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