最近のインターネットニュースや週刊誌の報道から、クレーム畏怖社会の到来を実感している。「カエルのキャラクターが未成年者の飲酒を助長する」(キリンビール/缶チューハイ「本搾り」)、「つけ鼻と金髪のかつらを用いたCMは人種差別を煽っている」(全日本空輸/羽田国際線大増便)などのクレームにより、数々のテレビCMが放映中止に追い込まれている現実。さらに、漫画「美味しんぼ」の「鼻血」表現に対してのバッシングが続いた。
では、理不尽なクレームに対して企業は過剰反応しているのか? 今、誰もが、何を信じて良いのか分からないという不安な時代を生きている。些細な動機により事件が発生する現実が、人々の不安をかきたてて「不満」のガスをためているのだ。
「我慢できない、やさしさの足りない時代」
現代社会では、こうした普通の人と犯罪者の間の「ボーダレス化」が進んできた。いわゆる「モンスター」とよばれる人たちもボーダレス化し、一見して普通の人がモンスターに変身することも多く、体感治安が悪化している。すなわち、誰もがモンスターの理不尽な攻撃にさらされると可能性と同じように、モンスターに変身してしまう可能性も高まっているのだ。
そして、皮肉なことに、サービスを提供する側が満足を追求すれば、「満足のハードル」は高くなり、逆に不満が増えることになる。便利な世の中になればなるほど不満を感じる人が増えるという図式は、現代社会の歪みといえるだろう。満足の期待値が上がり、その一方で怒りの「沸点」はどんどん下がってきている。待てない、満足できない、「便利で豊かな時代」は「我慢できない、やさしさの足りない時代」でもある。
天真爛漫な「天然ボケ」は憎めないが、独特(自分勝手)の感性で相手を困らせるモンスターも増えている。
たとえば、レストランの店内にハエが飛んでいるのを見つけて、大騒ぎする男性。
「ハエがいる! 早く、なんとかして」
2匹の小さなハエが、男性のテーブルから10メートルほど離れた壁にとまっている。普通は、料理にハエがとまらなければ、とくに支障はないと考えるものだが、「ハエは飛びながらでも卵を産み落とす」と主張する。しかし、ほかに客がいるときに殺虫剤をまくわけにはいかない。
「飛びながら卵を産むなんて、そんなことあるんですか?」
店員がこんなふうに言おうものなら、鋭い目つきで睨みつける。
「君は本当に、ないと言い切れるのか?」
じつは、飛翔しながら産卵する種類もいるらしい。
さて、店側はどんな対応をすればいいだろうか? ハエが近づいてきて気持ちが悪いというなら料理を作り直すか、さもなければ代金を取らないといったことぐらいしか、私には思い浮かばない。