キャク(客)ソー(相談)担当者が「逆クレーマー」に変身 心の悲鳴が「負に連鎖」する時

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   お客様は神様、クレームは宝の山――企業でよく使われるフレーズである。たしかに、クレームはサービス向上や商品開発に役立てられる。しかし、企業が目指す顧客満足を逆手にとって、やりたい放題をするモンスターがいるのも事実だ。

   一見、真面目そうな人でも、土下座などの理不尽な謝罪を求めるモンスターに変身する人は少なくない。私はこうした人たちを「ホワイトモンスター」と名付けている。

「ホワイトモンスター」予備軍

酒が入ると「立場」が逆に…
酒が入ると「立場」が逆に…

   講演やセミナーで各地を回っていると、「不満」というガスを溜め込んでいる人々が全国津々浦々にいることがわかる。彼らは、いつモンスターになってもおかしくないが、じつはハリセンボンが外敵から身を守るために体を膨らまし、刺を逆立てるように、精一杯の虚勢を張っている。

   現状に100%満足している人は、まずいない。多かれ少なかれ、自分の将来について不安を感じていたり、社会や組織、人間関係に不満を抱いていたりするはずだ。それが怒りや嫉妬といった負の感情と結びつくと、やがて心のタガが外れてしまう。

   たとえば都会のラッシュアワーでは、サラリーマンが「ひたひたと押し寄せる不安」や「爆発寸前の不満」を抱えながら、諦め顔で先を急いでいる。私には、彼らがモンスター予備軍に見えてしかたがない。

その目は完全にイってしまっていた

   昨年、こんなことがあった。午前11時の品川駅(東京)。すでにラッシュアワーは過ぎていたが、この日は人身事故の影響でホームは大変な人混みだった。

   人が押し合いへしあいするなかで、私は隣にいた若い男性と軽く足が絡んだ。そのとき、その男性の舌打ちが耳元で聞こえた。

「チッ!」

   最近はだいぶ枯れてきたが、まだまだ人間の器が小さい私は、ムッとしてその男性を睨みつけた。

   『こんな状況だから、しかたがないじゃないか』という思いだった。

   しかし次の瞬間、男性の目を見て『しまった!』と後悔した。この男性は、スーツ姿のサラリーマン風だったが、その目は完全にイってしまっていた。薬物中毒ではないだろうが、尋常ならざる殺気を漂わせていたのである。

   私は危険を察知して、すぐに「すんません」と詫びた。こんなとき、関西弁は便利である。かしこまって「申し訳ありません」とは言いにくいが、関西弁なら軽い調子で言葉が口から出てくる。

   殺傷事件になる可能性は低かったと思うが、ひとつ間違えば、逆恨みを買ったり、逆ギレされたりして、ひと悶着あったかもしれない。

   日頃はルールをしっかり守り、規範的に行動する日本人も、アクシデントに遭遇すると、意外に脆い。私は、それがとても怖い。

   ビジネスの世界では、仕事を通じて商談相手と仲良くなることがあるかもしれない。しかし、警察官やクレーム担当者の場合、そうはいかない。警察官が犯罪者を好きになることはないし、クレーム担当者がクレーマーに愛情を感じるものでもない。

「今日はどんなクレームが来ているのか、楽しみだな」

   こんなことを言う人は、まずいない。無理難題を突きつけ、いきなり激怒する相手にも丁寧に事情を説明し、なんとか理解してもらおうと努力を重ねるが、納得させるのは容易ではない。

昼にクレームを受け、夜にクレームをつける

「お客様は何様ですか!」

   キャクソー(お「客」様「相」談室)からは、心の悲鳴が聞こえる。

   私は講演やセミナーが終わったあと、参加者と懇談するのを楽しみにしている。クレーム対応の担当者から本音を聞けるからだ。ときには、懇親会と称して、こじんまりした酒宴を開くこともある。家内は「ただ飲みたいだけでしょ」と憎まれ口をたたくが、貴重な情報交換の場であることも事実だ。

   その宴席がたまに荒れることがある。あちこちで手拍子が始まったと思ったら、いつの間にか、キャクソーのメンバーがクレーマーの集団と化しているのである。

「ビールの置き方が悪い」
「もっと早く料理を持ってこいよ」
「こんなまずい料理、伝票につけるなよ」

   仕事のストレスが、こうした行動に駆り立てるのだろう。昼にクレームを受け、夜にクレームをつけるわけである。これは「負の連鎖」、あるいは「複合汚染」である。(援川聡)

援川 聡(えんかわ・さとる)
1956年生まれ。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたプロの「特命担当」。2002年、企業などのトラブル管理・解決を支援するエンゴシステムを設立、代表取締役に就任。著書に『理不尽な人に克つ方法』(小学館)、『現場の悩みを知り尽くしたプロが教える クレーム対応の教科書』(ダイヤモンド社)など多数。
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