キャク(客)ソー(相談)担当者が「逆クレーマー」に変身 心の悲鳴が「負に連鎖」する時

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その目は完全にイってしまっていた

   昨年、こんなことがあった。午前11時の品川駅(東京)。すでにラッシュアワーは過ぎていたが、この日は人身事故の影響でホームは大変な人混みだった。

   人が押し合いへしあいするなかで、私は隣にいた若い男性と軽く足が絡んだ。そのとき、その男性の舌打ちが耳元で聞こえた。

「チッ!」

   最近はだいぶ枯れてきたが、まだまだ人間の器が小さい私は、ムッとしてその男性を睨みつけた。

   『こんな状況だから、しかたがないじゃないか』という思いだった。

   しかし次の瞬間、男性の目を見て『しまった!』と後悔した。この男性は、スーツ姿のサラリーマン風だったが、その目は完全にイってしまっていた。薬物中毒ではないだろうが、尋常ならざる殺気を漂わせていたのである。

   私は危険を察知して、すぐに「すんません」と詫びた。こんなとき、関西弁は便利である。かしこまって「申し訳ありません」とは言いにくいが、関西弁なら軽い調子で言葉が口から出てくる。

   殺傷事件になる可能性は低かったと思うが、ひとつ間違えば、逆恨みを買ったり、逆ギレされたりして、ひと悶着あったかもしれない。

   日頃はルールをしっかり守り、規範的に行動する日本人も、アクシデントに遭遇すると、意外に脆い。私は、それがとても怖い。

   ビジネスの世界では、仕事を通じて商談相手と仲良くなることがあるかもしれない。しかし、警察官やクレーム担当者の場合、そうはいかない。警察官が犯罪者を好きになることはないし、クレーム担当者がクレーマーに愛情を感じるものでもない。

「今日はどんなクレームが来ているのか、楽しみだな」

   こんなことを言う人は、まずいない。無理難題を突きつけ、いきなり激怒する相手にも丁寧に事情を説明し、なんとか理解してもらおうと努力を重ねるが、納得させるのは容易ではない。

援川 聡(えんかわ・さとる)
1956年生まれ。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたプロの「特命担当」。2002年、企業などのトラブル管理・解決を支援するエンゴシステムを設立、代表取締役に就任。著書に『理不尽な人に克つ方法』(小学館)、『現場の悩みを知り尽くしたプロが教える クレーム対応の教科書』(ダイヤモンド社)など多数。
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