販売競争はしていても、危機管理に関しては共通の問題
同業のA社やB社などにも、警察OBはたくさんいました。しかし、若いほうで50代後半、一番多いのが60歳の定年まで勤め上げた役職経験者でした。
一般に警察OBの相談役といえば、警察にも顔が利くことから、暴力団絡みのトラブルや暴行、恐喝などの「事件」が起きたときには心強い存在です。ところが、事件にならない揉めごとのクレームの段階で、気安く相談することはできません。
その点、私は気軽に相談できる存在だったのでしょう。接客用語をマスターしたことで、仲間として受け入れられるのも早く、私のもとにはさまざまな事案が集まるようになり、幅広いクレームへの対応が私の職務領域になっていったのです。
クレームの現場で経験を積んだ私は、大手流通業で構成する協会で役職をいただきました。本業では、すさまじい販売競争を展開している流通業界ですが、こと危機管理に関しては共通の問題を抱えています。店内の事故や食中毒、万引きやクレーマーなどへの対応です。
協会では、数か月に一度、情報や意見を交換し合っていました。ここでも、若くして転職した元刑事は珍しく、いろいろと意見を求められ、知り合いも増えました。
「援川さんは警察OBらしからぬ感じがして、相談しやすかった」
いまでもときどき酌み交わす知人に言われて、うれしい半面、「どこか頼りなく威厳がない自分」を反省しています。
こうして、運よくまわりの支援を得て独立し、なんとか生き延びることができた私です。
官から民へ、子会社(警備会社)から親会社(大手流通業)へ、破綻から独立へ、と私の境遇は激変しました。今、振り返っても波瀾万丈としか言えません。
人生の転機で経験した理不尽な現実の中で、色々な人の「援護」と「ご縁」を得ながら、何とか道を踏み外さずに生きてきたのです。(援川聡)