「業務上の指導」名目に嫌がらせ 「大勢の面前で罵倒」は日常茶飯事

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   モンスターはいたるところに潜んでいる。職場も例外ではない。いや、常に顔を合わせなくてはいけない社内環境での「理不尽な人」は、より深刻で心が折れそうになる。

   2013年に放映された連続テレビドラマ『半沢直樹』は、痛快なストーリーが受けて異例の大ヒットとなった。横暴な上司に悩まされている多くのサラリーマンは、さぞかし溜飲を下げただろう。

薄ら笑い浮かべ「失敗は許されないよ」

  あそこまで怒鳴らなくても…
あそこまで怒鳴らなくても…

   しかし、主人公の決め台詞――「やられたら、やりかえす」「倍返しだ!」とはいかないのが現実だ。

   ある中堅企業での出来事である。50代の部長は30代の部下を会議室に呼んだ。

「A社から苦情の電話だ。納入した商品に不満があるらしい。こちらの担当はX課長だが、彼にはただちに先方へ事情を聞きに行かせている。もし、A社とうまく話がつかないようなら、君の責任において問題を解決してほしい」

   部長はこう言いつけると、足早にその場を立ち去ろうとする。部下は、思わず声を上げる。

「ちょっと待ってください。A社との取引については、まったく事情がわからないのですが……」
「詳しいことは、X課長に聞いてくれ。これくらいの案件は、君にとってお茶の子さいさいだろう。ともあれ、A社との取引は専務の肝いりで始まったことだ。失敗は許されないよ」

   薄ら笑いを浮かべる部長の前で、部下は『またか』と心のなかでつぶやいた。部長の嫌味は耳にタコができるほど聞かされている。なにが気に食わないのかわからないが、なぜか部長から毛嫌いされているようだ。なにかにつけて、面倒なことを押しつけられ、そのたびに強いプレッシャーを加えられる。

『もし、しくじったら、なにを言われるかわからないな』

   部下は、暗澹たる気分で会議室を出た。

社内という「密室(温室)」でやりたい放題

   仕事でミスをすれば、上司や先輩に叱責されるのは当たり前である。しかし、なかには「業務上の指導」を名目に、いじめや嫌がらせをする「社内モンスター」がいる。

「大勢の面前で罵倒されるのは日常茶飯事。ちょっとでもミスをすると、『役立たず』と怒鳴られる。失敗しなくても『いい気になるなよ』と冷たくあしらわれる。仕事ができる、できないという以前に、ひとりの人間として認めてもらっていない」
「課長は論理をすり替える名人。無謀な販売計画を立てても『お客様のため』などと理屈をつけて部下を説き伏せる。しかし、実際は単に自分の社内評価を上げたいだけ。目標を達成できないと、部下の誰をスケープゴートにする」

   あなたの周囲に、こんな上司や先輩はいないだろうか?

   職場は地域社会と同様、いやそれ以上に「しがらみ」がキツい。毎日、イヤな上司や先輩とも顔を合わせなければならない。理不尽なことを要求されても、家族を養うためには、おいそれと会社を辞めるわけにもいかない。

   その一方で、職場のいじめや嫌がらせは表面化しにくい。仲のいい同僚も、自分が標的になるのを恐れて、見て見ぬふりをすることもあるだろう。組織ぐるみで口裏を合わせて、隠蔽工作をすることがあるかもしれない。

   多くのモンスター上司は、社内という「密室(温室)」のなかでやりたい放題である。

   会社役員だった50代の男性は、自分のキャリアを振り返りながら告白する。

「社内政治に目を向けた『内向き』や、上司の目ばかり気にする『上向き』。あるいは、責任の『押しつけ』、面倒なことの『丸投げ』、指示の内容を何度も確認させる『ぶり返し』。会社ではこうした処世術がまかり通っていた。私もその環境のなかで、上司にたたかれ、部下をたたいてきた。しかし、こんなふうに上司にたたかれるのも、部下をたたくのも嫌になった」

   この男性は定年を待たずに退職し、いまは行政書士として独立開業している。(援川聡)

援川 聡(えんかわ・さとる)
1956年生まれ。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたプロの「特命担当」。2002年、企業などのトラブル管理・解決を支援するエンゴシステムを設立、代表取締役に就任。著書に『理不尽な人に克つ方法』(小学館)、『現場の悩みを知り尽くしたプロが教える クレーム対応の教科書』(ダイヤモンド社)など多数。
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