海外から東京に帰ってきて、いつも思うことがあります。それは「止まっているエスカレーターが少ないなあ」ということ。
アジアでもヨーロッパでもアメリカでも、街中で停止中のエスカレーターに出くわすことは日常茶飯事。止まったエスカレーターを歩いて登るときの違和感を味わうたびに、「おっと、ここは海外か…」と思い出します。
海外では故障箇所しか直さないからすぐ止まる
あるメーカーの方から、日本のエスカレーターの故障率が非常に低いと聞いたことがあります。理由は単純で「定期検査を真面目にやっているから」。検査スタッフが真面目に調査して「故障する前に修理しているから」ということでした。
彼がとあるアジアの海外法人の状況を調査したとき、定期検査が「定期的に」行われていないことに驚いたそうです。設備の管理台帳がいい加減で、検査のスケジュールもきちんと組まれていない。そして設備業者も顧客も、それを全く問題視していないことでした。
修理の現場に同行したところ、現地人スタッフは止まっているエスカレーターの壊れている箇所を見つけると、そこの部品だけを交換し修理終了にしてしまったそうです。
エスカレーターの部品は回っているので、1カ所が摩耗していたら他の部分も摩耗している確率が高い(だから定期検査が必要なのですが…)。それなのに、スタッフには「動くようにしろ」という指示しか与えられてないので、動き出したらさっさと帰ってしまう。だからまた、すぐに止まってしまうのです。
この一連の流れを聞いて「だから外国人は」とか「日本人でないと」と言うことは簡単です。しかし、そんな文句を言ったところで、エスカレーターはすぐに止まってしまいます。大切なことは「どうすれば止まらないようにするか」。さて、彼はそれからどうしたのか。
「日本の常識を説明し共有する能力」が大事
彼はまず、現地人マネージャーに対して、日本人であれば常識となっている「目標」を設定しました。「我が社のエスカレーターの競争力は、止まらないことにある」と説明し、スタッフに「自分が修理したエスカレーターが向こう3か月止まらないようにすること」を求めました。そして、定期検査を定期的に行うことを徹底しました。
日本人社員にとって、この程度は当然のことであり、説明しなくても全ての社員に伝わっています。しかし、だからこそ現地で起こっている問題の原因を発見することができなかった。本当の原因は現地人のサボタージュではなく、日本人が「自分たちの常識は海外でも当たり前である」と考えていたことだったわけです。
逆に考えると、日本の当たり前品質を明文化し、海外のスタッフに実行させるだけで、現地では圧倒的なサービスレベルを達成でき、競合に対して優位に立つことができます。
このように「日本の常識」を適用するだけで、海外では圧倒的になれる事例はたくさんあります。ただ、日本人にとっては当たり前のことであるために、問題が発見しにくかったり、外国人スタッフになぜそれが必要かを説明するのが難しかったりします。
その困難を乗り越えることが、日本企業が現地で勝つためのひとつの方法です。海外で働く事を考えている人は、「常識」を改めて説明する練習を日常的にしておいた方がいいかもしれません。そのメソッドは、「常識」を知らない新入社員が入って来たときにも役に立つと思います。(森山たつを)