「自分が変われば相手も変わる」の好循環を作る方法

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   産業医をしていると、「職場で強いストレスを受けた」と訴える人の相談をよく受けます。中にはセクハラやパワハラのように問題となる人や事実が明確でなく、訴えが主観的で、原因が不明瞭な相談も少なくありません。

   しかし、本人が強いストレスを感じていることは疑いがなく、だからこそ対策が困難となります。その状態を脱するのは本人しかできないのですが、そのようなケースに陥らないためには、どのような心構えをすべきなのでしょうか。

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「自分の心」というフィルターを見直そう

事実や現実を客観的に見ることが出発点
事実や現実を客観的に見ることが出発点

   よく見られるのは、「誰々が悪い」「会社が悪い」と責め、恨みつらみを延々と述べる人です。何か問題があれば、その原因を突き止めて解決に向けて動くことが必要ですが、そういうことにも至らず、とにかく「他人が悪い」と訴えるわけです。

   そうすることよって、仮に自分のストレスが解消されるのであれば、そういう行動も正当化されるでしょう。しかし、実際にはよい方向には向かわず、悪い感情を相手にぶつけて相手を巻き込み、結局は自分の苦しみを増す悪循環になるわけです。

   この状況を脱するためには、感情に振り回されるのではなく、どこかの段階で客観的な事実や現実を冷静に受け入れることです。そして、そこから何ができるかを前向きに考えるようにしましょう。

   心のあり方を前向きにするだけで、「誰々が悪い」「会社が悪い」と思われていたものが、実はそうではなかった、問題は別にあったと気づくことが往々にしてあります。

   同じ風景を見ていても、見るときの感情で、見え方が大きく変わります。気分がよい時には「日本一素晴らしい山」と荘厳に見える富士山も、気分がどん底な時は「越えられない高い壁」「麓の樹海は自殺の名所」とネガティブに見えてしまいます。

   このように私たちは「自分の心」というフィルターを通して、物事を見ているのです。

「利他」の行動が自分のためになる

   これは「認知」という心の働きによるもので、うつ病などの「認知行動療法」にも応用されています。この療法は、ある出来事に直面したときに、自分の捉え方をクセや偏りとして客観的に確認し、自分の気づきで修正していく方法です。

   まずは相手に対する悪い感情が、実は思い込みや偏見ではないかと疑ってみましょう。そして、まずは悪い感情に対するこだわりをやめ、さらには相手のよいところをあえて考えるようにしてみます。

   最終的には、あえて相手が喜ぶことをしてみることをオススメします。ポジティブな反応が返ってくると、自分がうれしくなります。これは心理学で「投影」と呼ばれる効果で、心理療法やコーチングなどの分野で「自分が変わると、相手も変わる」と表現されます。

   もちろん、相手が本当に悪意で向かってきている場合には、相手を好きになる必要はありませんが、そうであれば根本的な解決策を考えるか、自分の感情が振り回されない心の持ち方を考えるかしかありません。

   成果主義が進み、自分さえよければいいという雰囲気が広まると、誰が悪いわけでもないのにお互いの悪いところばかりが目に付き、反目しあうようになります。毎日のあいさつや、職場の掃除やお茶入れなど、利他の行いを大切にすることで、雰囲気のよい職場にしていきたいものです。


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今回の筆者:笹原 信一朗(ささはら・しんいちろう) 2003年筑波大学大学院医学系・博士課程修了。医学博士。職域におけるうつ病の予防医学研究に従事。現場の産業医と精神保健指定医の経験を積み、05年4月より筑波大学大学院講師。予防医学のリテラシー教育にも積極的に取り組んでいる。

筑波大学大学院・松崎一葉研究室
高度知的産業に従事する労働者のメンタルヘルスに関する研究を行い、その成果を広く社会還元することを目指している。正式名称は筑波大学大学院人間総合科学研究科 産業精神医学・宇宙医学グループ。グループ長は松崎一葉教授(写真)。患者さんを治療する臨床医学的な視点だけではなく、未然に予防する方策を社会に提案し続けている。特種な過酷条件下で働く宇宙飛行士の精神心理面での支援も行っている。松崎教授の近著に『会社で心を病むということ』(東洋経済新報社)、『もし部下がうつになったら』(ディスカバー携書)。
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