ストレスの少ない職業生活に「福利厚生」の充実は必要です

   就職氷河期といわれる買い手市場が続いています。そんな中、採用面接の席で「御社の福利厚生制度はどうなっていますか?」と尋ねるような人は、面接者から「そんな人はいらない!」と思われてしまうのだそうです。

   確かに会社としては、会社の発展にどう貢献してくれるかに興味があるわけですが、一方で働く人にとって福利厚生は大事な労働条件の一部ですから、おろそかにできません。会社も、あまり軽視しない方がよいのではないでしょうか。

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近所にクリーニング店があると仕事に集中できる?

単身赴任者に「洗濯物」は大問題?
単身赴任者に「洗濯物」は大問題?

   みなさんは、いまの職場で働くことにどれだけ満足しているでしょうか。「満足度」が高い人は仕事で強いストレスにさらされても、その状況に前向きに対応し、困難を打開することができることでしょう。

   満足度には、仕事そのものの面白さや達成感のほかに、給与や勤務体制、裁量の大きさなどが影響すると考えられます。しかし、これらの要素の改善にはさまざまな要素が絡むので、容易なことではありません。

   そこで考えられるのが、追加的に支給する「福利厚生」を少しでも充実させることです。

   最近の研究結果で、興味深い報告があります。単身赴任中の会社員を対象に調べたところ、住居とクリーニング店の距離が近いことと、職務満足度との間に関連性が認められたのだそうです。

   対象とした母集団は限られていますが、生活に便利な環境が整っていることが、職業生活の満足度を上げていたというわけです。これにより、単身赴任者のストレスを減らすためには、会社が社員向けの「クリーニング集配サービス」と契約することが考えられます。

   「いまの職場で働いていてよかった」という満足度を上げるためには、仕事や給与だけでなく、生活環境の充実を含めた福利厚生の充実も大事な要因のひとつではないでしょうか。

   「マズローの欲求段階説」によれば、人間は生命維持や安全といった基本的で原始的な欲求が満たされない限り、より高次な社会的欲求や自己実現の欲求に移行しないとされています。このことは職業生活にも当てはまると思われます。

諸手当の一律削減にも注意が必要です

   基本的で原始的な欲求を福利厚生によって満たすことで得られる効果は、単身赴任者に限ったものではありません。手軽な料金で美味しいランチが食べられる店が豊富にある会社では、従業員の満足度が高い可能性があります。

   米グーグル社が社員食堂のバイキングを無料食べ放題にしたもの、そういうねらいがあったのではないでしょうか。日本でも楽天がこれにならっていますし、数十人単位の会社でも、まとめて弁当を注文したり、会社がケータリングサービスを提供したりするところもあるようです。

   そのほか、ワーキングマザーが子どもを保育園に連れて行きやすい環境にあるとか、閉園時間にあわせて退社しやすい勤務時間であるとか、保育費の補助が出るといった施策によって、働く女性のストレスを軽減し、仕事に集中してもらうことも考えられます。

   もちろん従業員間の公平性が損なわれるようでは逆効果になりますが、会社として基本的なスタンスを決めておけば、混乱せずに効果を上げることはできるはずです。

   成果主義的な考え方が徹底され、諸手当を削減する会社が多いようです。惰性で行われているものを見直し、ムダをなくすことは大事だと思いますが、福利厚生効果が上がっているものまで削ってしまうと、働く人のストレスを高め、モチベーションを下げるおそれもあることに気をつけてください。


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今回の筆者:林 美貴子(はやし・みきこ) 筑波大学大学院 人間総合科学研究科産業精神医学・宇宙医学グループ所属。保健師、看護師。知的労働者のメンタルヘルスや健康管理・健康支援を研究テーマとして医学博士を取得。健康保険組合や外資系企業の人事・健康管理部門を歴任し、実経験を踏まえた視点で研究・調査を行う。

筑波大学大学院・松崎一葉研究室
高度知的産業に従事する労働者のメンタルヘルスに関する研究を行い、その成果を広く社会還元することを目指している。正式名称は筑波大学大学院人間総合科学研究科 産業精神医学・宇宙医学グループ。グループ長は松崎一葉教授(写真)。患者さんを治療する臨床医学的な視点だけではなく、未然に予防する方策を社会に提案し続けている。特種な過酷条件下で働く宇宙飛行士の精神心理面での支援も行っている。松崎教授の近著に『会社で心を病むということ』(東洋経済新報社)、『もし部下がうつになったら』(ディスカバー携書)。
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