昔の恋人がつけていた香水を嗅ぐと、切ない思い出が蘇ってくる――。嗅覚の記憶が、個人的な感情を呼び起こすことがあります。
このような反応を、心理学では「プルースト効果」と呼んでいます。フランスの作家プルーストの「失われた時を求めて」という小説にある、主人公がマドレーヌを紅茶に浸した香りをきっかけに幼少期を思い出すエピソードが由来となっています。
登山に「におい」のリラックス効果もあり
脳には扁桃体という部分があり、ドーパミンやアドレナリンなどのホルモンを分泌し、記憶や感情をコントロールしています。この部分が最も活性化されるのは、視覚や聴覚よりも嗅覚刺激であることが分かっています。
においは、人間の身体に生物学的な反応を引き起こすことで、ストレスの解消や精神的な安定をもたらしているのです。
たとえば最近ブームになっている「登山」にも、運動の効果だけでなく、自然に存在する匂いが脳に働きかけるリラックス効果もあることが分かっています。
ヤマザクラ(桜)とマダケ(竹)の匂いによる効果を比較した実験によると、いずれも主観的なストレス軽減効果はなかったものの、ともに脳の活動の沈静化を確認することができました。
ヤマザクラのにおいは交感神経活動を抑制し、マダケのにおいは交感神経活動を活性化させることで、心身をリラックスさせていたのです。
この効果は、職場においても応用することができると思います。グレープフルーツやラベンダーの香りや、ゼラニウムの香りを嗅ぎながらパソコン作業をする実験では、作業効率の向上や疲労感の低下といった効果が確認されています。
不眠に悩む人が就寝時にアロマテラピーを活用することで、睡眠の質が改善したという話は、よく聞かれるところです。
ただし、どんなにおいがどのような効果をもたらすかは、大まかな傾向はあるものの、個人的経験によって異なるところもあるようです。くれぐれも肝心なときに失恋相手の香水を間違って嗅いでしまわないように。