能率重視でストレス回避 「完璧思考」に陥るな

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   誰もが自分にとっての「理想」を持ちながら「現実」を生きています。ただ、理想と現実のギャップにばかり意識が行き過ぎると、心や身体にストレスを生むことになります。

   うつ病などのストレス性疾患で精神科や心療内科に通院している患者さんの中には、このような「完璧思考」「100点満点思考」からうまく抜け出せずに苦しんでいる人がたくさんいます。このワナに陥らない思考を大切にしましょう。

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「いつ誰が見ても100点満点」にこだわらない

「完璧」なんて実現し得ない幻想だ
「完璧」なんて実現し得ない幻想だ

   どんな仕事でも、上司の評価には主観的な要素が含まれます。ある上司から見れば「すごく良い出来」と評価される仕事が、他の上司から見れば「イマイチ」に映ることもありうるわけです。

   企画書の作成などでは特に好みが反映されますし、数量的な成果であっても「この状況であればもっとできたはず」などと言われる余地だってあります。

   学力テストのように、何が正解かはっきりしているものは、完璧を目指すことも悪くありません。しかし、評価軸が多様な実社会の仕事においては、「いつ誰が見ても100点満点」というものは存在せず、実現し得ない幻想と言ってもいいでしょう。

   このことを心の隅にとどめておくと、上司から指摘を受けるときにも「この人が、いま感じたことはこうなんだな」と素直に受け止めることができます。

   逆に、完璧にこだわっていると、仕事の出来になかなか納得できず、仕上げるのに時間が掛かりすぎて叱られたり、上司の指摘に自分が否定されたようなショックを受けることになったりします。

   特に仕事が遅い人がよく陥りがちなのが、重箱の隅をつつくように細部にこだわりすぎることです。社内研修会の案内文の「てにをは」が気に入らず何度も直したり、エクセルで概算書を作るときにセルの大きさが不揃いなのが気になって時間をかけて直したり、という具合です。

「死人が出なきゃ成功」の考え方

   過剰に時間をかけた時に限って、上司のチェックで該当部分をばっさりカットされてしまったり、内容の根本的なミスを指摘され慌ててやり直したりする・・・。そんな経験をした人もいるのではないでしょうか。

   押さえるべきは、それぞれの仕事に存在する「求められていること」です。社内研修会の案内文であれば、日時と場所、大まかな内容が間違いなく伝わることでしょうし、概算書は、大まかな数字が伝わればよいわけです。

   他はあえて直す余地を残して早めに提出し、指摘を取り込みながら修正した方が、かえってお互いに気持ちがいいものです。

   もちろん、質の高さを求められる仕事もたくさんありますが、1日の時間は有限です。時間をかける必要があるのかどうか意識しながら、時間と労力の配分を考えていくようにすると、仕事の能率も上がるはずです。

   直木賞受賞作家、奥田英朗さんの小説作品「伊良部シリーズ」では、心の病を抱えたユニークな患者たちが、自分勝手で型破りなハチャメチャ精神科医・伊良部に振り回されます。

   伊良部はときに自覚なく的を射た発言をし、そのことが患者の病気が良くなるきっかけになったりするのですが、発言のひとつに、

「物事、死人が出なきゃ成功なのだ」

というセリフがあります。さすがにこれほどまでの極端な心構えではないにしても、そのようなアバウトさも、ストレス対処の手助けになります。


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今回の筆者:大井 雄一(おおい・ゆういち) 筑波大学大学院 人間総合科学研究科産業精神医学・宇宙医学グループ所属。日本医師会認定産業医。労働者のメンタルヘルスと生活習慣を主な研究テーマとする。日本原子力研究開発機構(JAEA)などの産業医として労働者の健康管理に携わっている。

筑波大学大学院・松崎一葉研究室
高度知的産業に従事する労働者のメンタルヘルスに関する研究を行い、その成果を広く社会還元することを目指している。正式名称は筑波大学大学院人間総合科学研究科 産業精神医学・宇宙医学グループ。グループ長は松崎一葉教授(写真)。患者さんを治療する臨床医学的な視点だけではなく、未然に予防する方策を社会に提案し続けている。特種な過酷条件下で働く宇宙飛行士の精神心理面での支援も行っている。松崎教授の近著に『会社で心を病むということ』(東洋経済新報社)、『もし部下がうつになったら』(ディスカバー携書)。
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